SSブログ

創作短編(50): 五十回記念 山岡鐵舟 -1/22 [稲門機械屋倶楽部]

                2012-08 WME36 梅邑貫


時    :幕末(1868年)から明治二十年(1887年)まで
場所   :江戸と駿府
登場人物 :山岡鐵舟 その他

 幕末から明治維新への動乱も収まった明治十六年(1883年)のある日、山岡鐵舟が住む淀橋の私邸へ外務郷の井上馨が訪ねて来ました。
 山岡鐵舟は井上馨を好いてはおらず、それほど親しくもありません。ですから、会いたくはないのですが、「勅使として参上仕(ツカマツ)った」と言われて、天皇陛下の勅使を追い返すことも出来ず、邸宅に招じ入れました。しかも、勅使ですから粗末には扱えず、客間に通して上座に井上馨を座らせました。

「本日、貴殿に晴れて叙勲の報せを伝えに参った」
「勲章と申されるか」
「左様、貴殿には勲三等が授与されることに相なり申した」
 山岡鐵舟は自分に授与される勲章が勲三等と聞いて、即座に答えました。
「拙者、勲章は要らぬ」
「勲章は要るとか、要らぬとかではござらぬ」
「いや。要らん」
「まあ、待たれよ、山岡殿。勲章は陛下が臣下に授けるものでござる故、要らぬと申して断れるものではござらぬ。貴殿もよう知りおりましょう」
「拙者は陛下のお側に長くお仕え申したが、拙者に勲章を下さるとは陛下は一言も申されておらぬ。拙者への叙勲、これは貴殿達で決めたものであろう。政府より陛下に具申致せば、陛下は静かに頷かれる。そうであろう」
「確かに、叙勲は我等の政府より陛下に奏上致すが、これは陛下のお心でもあろう」
「井上殿、何時から陛下のお心の内を忖度(ソンタク)されるようになったのじゃ。左様の如く不純なる勲章は拙者は要らぬ」


nice!(5)  コメント(5)  トラックバック(0) 
共通テーマ:blog

nice! 5

コメント 5

ぼくあずさ

創作短編50回記念、おめでとうございます。
by ぼくあずさ (2012-08-11 15:08) 

hanamura

我が郷土静岡に関係深く、文武両道の偉人です!
50回記念!毎回楽しませて戴き感謝いたします。
by hanamura (2012-08-11 20:27) 

梅邑貫

我ながらよくも50回と思っております。読者の皆様の励ましの賜物です。
一方、50回も続くと、次に誰を題材とするかが難しくなっております。この「山岡鐵舟」も、山岡鐵舟のことを書こう決めるまでに一週間ほどを要しました。
by 梅邑貫 (2012-08-11 22:16) 

梅邑貫

hanamura さんへ
御指摘の通り山岡鐵舟は静岡県と縁の強い人物で、県令を務め、次郎長とも良好な関係を保ちました。
続きをお楽しみ下さい。御愛読を感謝します。

rtfk、 アルマ、haku、あゆさこ の皆さんにも "nice" を頂戴し有難うございます。


by 梅邑貫 (2012-08-12 07:11) 

ぼくあずさ

父は駿府生まれ。続きを愉しみにしています。
by ぼくあずさ (2012-08-12 15:15) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。