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こげ茶色の細い竹 -4/21 [北陸短信]

                                                                          刀根 日佐志


「先生のご専門はなんですか」
「私は国立T大学を定年退官後、私立R大学で、自分の専門である自動制御を教えていました。その延長で、ロボット研究をしていたのです。そのロボットが長い時間、故障せずに、動くかどうかの信頼性評価をするために、評価理論を考えました。今日、講演した理論は、プロ野球や会社経営だけでなく、行政の事業など様々なものの評価ができます。ロボット研究の副産物です。夏山さんは理系の出身ですか。それでは詳しい資料を、後日お送りしますのでお読み下さい」
「もう大学を卒業して、三十五年も経ちますと、何もかも忘れています
でも、ご講演の内容は興味を持ってお聞きしました」


 難しい数学式などは、久しく縁がなかったが、次郎は理論そのものには興味があった。特に、各評価が数値で具体的に出てくるので、もっと詳しく聞いてみたい気持ちがあった。だが、この忙しい時期、別のことに首を突っ込みたくなかった。先生は手を伸ばして、テーブルからジュースの入ったコップを掴むと、口に運んだ。そして、話を続けた。
「私が考えた評価方法は、何の評価にでも応用できます。学校のことであれば、教育理念、学校運営、教育研修、部活動状況などの項目を決めて、代表者数人で採点します。その採点を数式に入れれば、総合評価が点数とグラフで出てきます。したがって、今後の改善点が分かります」

 先生は一言ずつ噛み砕くような口調で、決して、自分の話を押し付けるような感じはない。
「私の評価式で計算すると、仮に、アテネオリンピックで、三十歳台の高橋尚子がマラソンで走っていたとします。でも、勝てなかったという結果が出ました。個人競技は、個人の運動能力差が勝敗に影響します。判断力、経験歴では三十代、耐久力では二十代が強い。したがって、耐久力の必要なマラソンは、二十才台の選手が有利と出ました」
 急に女子マラソンに話題を変え、こと細かに、その評価結果を述べる顔は、輝きが増していた。話好きなのか、その場所に根を生やしたように、じっと動かずに淡々としゃべり続けた。
「評価を導き出す数式は、独自に誘導したものです。講演でも話しましたが、この式は誰でも分かる簡単なものです。夏山さんも、ご理解いただけると思います。資料をお送りしますので、お読み下さい。」
「え……、まあ……、そうですか」


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