SSブログ

創作短編(38):江戸の悪党 鳶沢甚内 -4/8 [稲門機械屋倶楽部]

                                                           201202 MWE36 梅邑貫

.

  そのような混乱の最中に、鳶沢甚内と称する盗賊の一味が江戸市中を荒し廻っているとの報せが家康に届きました。

「鳶沢甚内とは、風魔の残党か」

「いいえ。風魔ではないとの由にござりまする。ただ、小田原城の残党かもしれぬと推し量られまする」

「そうか。小田原の浪人か」と、家康は報告を聴いて、思うところがありました。

「浪人であれば武士。出自が怪しげな風魔とは異なり、話せば判る相手であるな」

「はっ」

「その鳶沢甚内と申す者。一味と共に捕らえよ。殺してはならん。腹を切らせてもならん。五体無事のまま捕らえよ」

.

 暫し後に鳶沢甚内は捕らえられましたが、盗賊ですから荒縄で縛り上げられてはいても、甚内が不思議に思うほど丁重に扱われました。食べ物も十分に与えられ、鞭で叩かれることもなく、ただ数日間を牢屋に転がされていました。そこへ徳川家康が現れました。

「その方、鳶沢甚内と申すのだな」

「へい」

「小田原で北條に仕えおったそうじゃな」

「はっ。確かに北條家中の一人でござりましたが、自慢するほどの役には就いておりませぬ」

「役どころはどうでもよいのじゃ。その方は風魔を存知おるか」

「はっ。ときに風魔を城へ呼び、何やら命じておりましたようで、時折でござりまするが、幾人かの風魔をこの目で見掛けておりまする」

「そうか。今、江戸にはのう、箱根の風魔のみならず、盗賊共が仰山と入りおってな、その方と名が似ておるが、向坂甚内なる者もおるのじゃ。その方、元は北條に仕えたる武士。どうじゃ、盗賊を退治するに、わしに力を貸さんか」

 鳶沢甚内にはまことに意外な徳川家康の言葉でした。甚内は胸元を合わせ、座り直して家康の前で平伏しました。


nice!(7)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:blog

nice! 7

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。