SSブログ

創作短編(37):江戸の悪党向坂甚内 -7/10 [稲門機械屋倶楽部]

                                      2011-10 WME36 梅邑貫

.

 薄暗くなった柳原土手で、甚太郎は擦れ違いの一撃で人を斬りました。

甚太郎は袈裟懸けの犠牲になった者が誰だか知りませんが、その骸を土手から神田川へ滑らせて、そのまま道場へ戻って黙っていました。

.

 甚太郎は辻斬りを一度始めたら止められなくなり、武蔵が留守になるのを待って、柳原土手へ通っては人を斬りました。

ある夕刻、土手の上を駆けて来る飛脚を斬ってしまったのですが、いつものようにその犠牲者を土手の下に落とそうとして、懐から落ちた布袋に気着き、中を改めると五十両の小判が入っていました。  

かくして、人を斬り、その懐から小判を盗む快感に甚太郎はいつしか捉われてしまいました。

.

柳原土手で人が斬られ始めてその数が増えるに及んで、北町奉行米津勘兵衛田政(ヨネキツ・カンベエ・タマサ)の耳に届き、奉行所の与力が柳原土手へ調べに来ましたが、この与力は近くに住む宮本武蔵を呼び、葬られる前の犠牲者の遺体を見せました。

「宮本殿、そなたは剣術に秀でておられる。この斬り方を見て、如何思われるか」

「いや、それがし、未だ修行中でござれば、下手人までは判り申さぬ」

「まあ、そう言われずに御覧あれ」と言って、与力は骸に掛けた筵を外しました。

.

 武蔵は袈裟懸けの斬り口から刀の使い方を推し量り、直ぐに甚太郎の仕業と察しましたが、甚太郎の名を出すと武蔵も同罪に問われかねないので、咄嗟に首を横に振り、苦し紛れの答えをしました。

「斬り方のみでは、拙者には皆目判りませぬ。だが、この斬り様、剣術を修行したる武士のものではござらぬ」

「左様でござるか。では渡世人の如き者の仕業であろうかのう」

「左様でござりましょう」

「嫌なことをお願い申した。許されよ」と、その一言を聞いて、武蔵は足早に柳原土手を去って、道場へ戻りました。


nice!(8)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:blog

nice! 8

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。