創作短編(36)新春号: 山川捨松、又は Sutematz -6/15 [稲門機械屋倶楽部]
2012-01 WME36 梅邑貫
山川捨松はアメリカ・コネティカット州ニューヘイヴン(New Haven)の牧師でハヴァード大学系神学校の教授も勤めるレオナード・ベーコンとキャサリン・ベーコン夫妻の家庭に入りました。 .
ベーコン家には十四人の子供がおり、大所帯で育った捨松には馴染み深い光景であって、函館のフランス人家庭で西洋式生活を体験しているので、捨松は直ぐに溶け込みました。特に末娘のアリス(Alice Mabel Bacon:アリス・メイベル・ベーコン)は捨松の二歳年上で、ほぼ同年代になるので大の仲良しとなります。.
「ねえ、スティマツ、何故、あなたを引き取ったのか、知ってるでしょう」 捨松は自分の名を “Sutematz” と書きましたが、アメリカ娘のアリスにはステマツの発音が難しく、どうしても「スティマツ」と呼んでしまいます。
.「何故って。御親切のお陰だと思ってるのよ」 違うわよ。何しろ我が家は子供が十四人。パパの前の奥さんと、今のママ。二人で産んだんだから大変よ」.
「それは知ってるわ」 「十四人の子供が毎日お腹一杯に食べるのが大変なの。ところがね、十五人目のスティマツに来てもらうと、日本の政府がびっくりするほどのお金をくれるのよ。だから、パパもママもスティマツに喜んで来てもらったのよ」
. アリスと捨松の子供同士の話はともあれ、ベーコン夫妻は捨松を我が子達とまったく差別することなく扱い、三年間ほどは捨松が英語に習熟できるように熱心に教えました。 . やがて捨松はニューヘイヴンのヒルハウス(Hill House)高校へ入学しましたが、直ぐに大の人気者となります。もう達者に英語が話せるようになった捨松は自己紹介をしますが、それが次々と伝わって、捨松はヒロインになります。 .
東洋の神秘の国である日本から単身アメリカへ来た健気な娘。しかも「サムライ」の娘。年端も行かぬ八歳のときに、城へ飛んでくる「焼き玉」に布団を被せて爆発を防いだ勇敢な娘。少しだけどフランス語も喋ることができる日本娘。ベーコン牧師の十五番目の娘は凄い。 人から人へと伝わる捨松の印象は素晴らしく、直ぐにニュー・ヘイヴン市の一員となりました。
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