夢を追う男たち -17/18 [北陸短信]
.by 刀根 日佐志
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その高層ビルの窓外を見た。近くに数片の小さな雲が浮かび、風に吹かれて動いていく。見下ろすと、他の建物はマッチ箱のように見えた。道行く人は蟻のようだ。地表の出来事を眼下に眺めることの出来る異様な世界がそこに存在した。このフロアーに立つと、誰もが最初にする質問だろうと思いながら、荘一は聞いた。
「ここは地上何メートル位になるのですか」
「八四階ですから、おおよそ三〇〇メートルです」
お客さんが来ると、このような質問が多いと見えて支店長は、にこやかな表情をすると説得力のある口調で、すぐに答えが返ってきた。取引先のお客さんで、日本から訪ねてくる方も少なくないのであろう。
「エレベーターがないと大変ですね」
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三〇〇メートルの別世界は、荘一の感覚では異次元で空恐ろしい空間に思えた。この超高層ビルで仕事をしている人の一種の宿命や定めに、同情の気持を持った。この感情は「エレベーター」「大変ですね」という言葉のような質問になってしまった。
「先日、出勤時に停電になり階段を登りました。ここに着いたのが十一時半でした」
ダンデイな男振りの支店長は微笑んで見せた。
荘一は窓を覗いた時、最初に感じた高さの恐怖感は、一時間もすると薄れて行き違和感に変わってきた。でも、この高所で何かがあった時は、どうするのであろうかと言う怖さは残っていた。
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「ほら、見て下さい。セスナ機が飛んでいます」
支店長は指差した。外を見ると眼下にセスナ機が飛んでいる。
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それから数年後、窓一杯に馬鹿でかい、銀色で丸みのある筒先の様なものが見え、そこには人もいた。室内が窓に映っている光景か、何かの幻想かと思ったが、そうではない。ジャンボジェット機の操縦席である。
その窓めがけて飛び込んで来た。これ等は、瞬時の出来事であり、思考を巡らす暇はない。
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