夢を追う男たち -7/18 [北陸短信]
.by 刀根 日佐志
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(二)
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二枚目の写真を手に取った。
荘一は台湾へ商用で出かけたことを思い出した。仕事を終え、台北、士林(シーリン)市場の屋台で果物を食べていた。
隣の席にいた客は荘一が日本人だと分かると話しかけてきた。
「あなたは日本から来たのですか」
「そうです。三日前に富山から来ております」
「自分も同じ北陸です。金沢から来ました。一昨日から来てます。ここで、この断面が星の形をしたスターフルーツは初めて食べました。少し酸味がありますが、さっぱりした味ですね」
扁平で四角い顔を綻ばせて、話しながらスターフルーツをお替りしてたべていた。
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たがいに名刺交換をした。日本考案株式会社、社長、鯵川一雄とあった。
「ところで、先日の長野冬季オリンピックでは、原田選手のジャンプは飛距離が伸びましたね」
別れ際に、日本選手が大活躍したのを話題にしていたので、記憶に残っている。
鯵川は白山の麓で育ち、中学のスキー選手をしていたという。また、精神統一のため山に時々入るという。
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帰国後、中肉中背の鯵川は、作業服姿で荘一の会社を訪ねてきた。
「荷物を載せて階段を上る台車を作りたいのですが。知恵を貸してください」
顔をほころばせ、荘一の目を見つめてから視線をそらすと、しわがれ声で台車の設計図とイラストを見せ話した。
「普通の台車は四輪です。これは小さい車輪を五輪ずつ交互に二列に並べて片側に十輪、左右に合計二十輪くらい取り付けます。だから、階段の角を車輪が常に接触しております。したがって、階段でも楽々と重い荷物を載せて、登ることが出来ます。百足からヒントを得ました」
知恵を借りたいのでなく、今まで発明、販売してきた商品について大きな口から白い歯を見せ一方的に喋りまくった。
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