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創作短編(34):南高梅の元祖 -7/8 [稲門機械屋倶楽部]

                                      2011-11 WME36 梅邑貫

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   安藤直次の馬は、徳川頼宣が乗る馬の直ぐ後ろを追い、その直ぐ後ろに水野重央の馬も続いた。

 駿府城を出て東海道を西へ進み、尾張を過ぎて暫くしてから紀州の険阻な山々が続いた。駿府から紀州和歌山まで五十里はあるかと思うが、山道が多くてその道程の長さは正確には判らない。

 その紀州の山中で、頼宣の馬の歩みが次第に遅くなり、馬を牽く馬子がときおり振り返って安藤直次を見て困惑の眼差しを投げ掛けたが、直次は無言で頷いて先を急がせた。

 だが、その頼宣の馬が停まってしまい、頼宣が後ろを振り返って直次に何か言ったが、若さを失った声で直次には聞こえない。安藤直次は馬から降りると頼宣の側へ歩み寄った。

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「如何なされましたか」

 安藤直次は馬上の頼宣に声を掛けながら、馬子が持つ手綱を取り、馬子には木陰で休めと命じた。

「爺、やはり兄上はわしを嫌っておられる。さもなくば斯様に遠く辺鄙なる紀州へわしを追いやるはずがなかろう」

「殿、左様なことは断じてございませぬ。殿の兄上であらせられる上様は、徳川家の安寧を願えばこそ、殿を紀州の護りにお就けになられました」

「兄上はわしを嫌ってはおらぬと、爺は申すのだな」

「はい」

「兄上も、わしは騙せても、爺を騙すことはできまい」

「はい。されば今一つ申し上げたきことがございまする。殿はお若うございます。これより先、江戸とはときに気まずいこともございましょう。なればこそ、遠く紀州におられますること、決して損にはなりませぬ。諍いからは遠く離れおりまするが得策と考えまする」

「左様か。和歌山はもう近いのか」

「はい。残すところ半日の道程でございまする」

「では、参ろう」

 このように頼宣の馬が突然歩みを停めることが二度、三度と続いたが、その度に安藤直次が宥め諭してようやく和歌山城へ着いた。


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