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夢を追う男たち -6/18 [北陸短信]

                                  .by 刀根 比佐志

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「今度、加持の家に行き、奥さんのお顔を拝見してこよう」

荘一は妻の由紀と顔を見合わせて大笑いした。

「加持は一風変わった人だ」

加持の異色ぶりには困ったという表情で荘一が言った。

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「でも、あなたの方が変わっているわよ」

由紀は待ち構えていたかのように即座に言うと、荘一に含み笑いを見せた。

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「どこが変わっているのよ」

 荘一は由紀に真顔で言い返すが、由紀の笑みは消えなかった。

「変わっている人と言うのは、どこが変わっているのか本人は知らないのよ」

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 そしてポツリと言葉を付け加えた。

「私はあなたの三十歳のときに結婚したので、もう二〇年以上も連れ添っているのよ」

「貴方は、普通だと思っているのでしょう。でも変わっているわよ」

あなたのことは大概のことは分かるわよと由紀は言いたげな表情をしていた。

考え方や行動が、この人は他人と少々違うと日頃、由紀が感じているらしいことは荘一も知っていた。だが自分は、いつも、まともだと思っている。

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「俺も色々な物を発明はするが、あんな下らないものは考えない」

 あの固形抹茶などは、ムードもなければ情緒も感じられないと言いたかったが、言葉少なになった。

「あら、そうかしら、貴方の方がもっと下らない物が多いわよ」

 どうも由紀とは話が噛み合わない。

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その後、加持から「この間ご紹介した事業は失敗に終わり、別の商品を開発中であります」と連絡を受けたが、ずっと、音信は途絶えている。また、お土産に戴いた一箱の〈食べる固形抹茶〉は封も切らずに、そのままにしてある。


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