夢を追う男たち -4/18 [北陸短信]
.by 刀根 日佐志
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荘一は冗談かと、加持を凝視した。彼は、荘一にも勧めたが「失礼します」と述べると、固形抹茶の小さな塊を、楊枝で刺して口へ運んだ。
「食べる抹茶にしてありますので、苦みがあり、お菓子に合いますよ!」
口を動かし、お茶を味わうように食べると今度は、生菓子を美味しそうに頬張った。
荘一は呆気に取られて見ていたが、食べ終わると「ご馳走さま」と小声で呟くと、菓子皿と抹茶茶碗が描かれていたビニールシートを巻き畳むと、最後に横のゴミ箱に捨てた。つまり加持が開発した〈食べる固形抹茶〉と、〈飲茶シート〉を販売して欲しいとのことであった。
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「加持さん、これは屋外でキャンプや、お花見用とか、遊び道具として販売すればよいと思いますが」
少々失礼なことを言ったかと思ったが、加持は別段、気にも留めていない様子である。
「〈飲茶シート〉を使って〈食べる固形抹茶〉をたしなむ。こういう文化を広めたいのです」
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加持は、至って真面目な顔で意気込んだ。どうも本気で考えているらしい。
「災害時の非常食として〈食べる固形抹茶〉は適しています。そのルートで販売してはいかがですか」
荘一の感じたことを話してみた。
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加持のこだわりが、強かったのか無言であった。無表情な顔からは、そんなことは考えていないという言葉が伝わってきた。
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それから二、三ヶ月後の日曜日、加持から荘一の自宅に電話があった。ご夫婦で、旅行中らしい。
「いま富山へ来たので、樽本さんのご自宅へ、お寄りしたいのですが」
「どうぞ、お寄り下さい」
間もなく、愛用のベンツで奥さんと現れた。
加持の奥さんは、派手な濃紺に真っ赤なバラの花模様をあしらったミニのワンピースに金色の長いイヤリング、大きな宝石をあしらったネックレス、きつい化粧、どれ一つとってみても中年の水商売の女性に見えた
加持はカジュアルウエアでラフな服装であった。
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