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夢を追う男たち -3/18 [北陸短信]

                            .by 根 日佐志

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その後、かかりはなかったが二年位後、静岡の飲み屋で、出張中にパッタリと加持に出会った。加持の名刺、もみ上げも勿論だが顔の特徴は北京で会った時、瞬時に記憶の中に張り付いていた。

細長く頭部から顎に向けて直線的に細くなり、顎の先端が尖り、長く大きな鼻と両端に垂れ下がった丸い目、厚い唇と大きな口、顔の部品がみな大柄である。どのような仕事をしているのか知らない。だが、陽気で色々なものに研究熱心で、こだわりが強いが、すぐに物事に飽きてしまう人物であると荘一は勝手に想像した。

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数ヶ月後、加持は荘一の会社を訪れた。挨拶を終えると、カバンから二枚のB四大の薄いビニールシートを取り出した。腰を下ろすと、応接テーブル上に広げた。これは、群馬県の発明仲間から、権利を譲り受けたものだという。食事用のものをアレンジして〈飲茶(ヤムチャ)シート〉にしたものらしい。

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「この〈飲茶シート〉を使うと、例えば、このような事務所でも、ご家庭でも高級喫茶で和菓子を味わいながら、抹茶を賞味している気分になれます。お皿もお湯、抹茶茶碗もいりません。洗う手間もいりません。このシートは使用後、捨ててしまえばよろしいのです」

加持は得意そうな表情で、笑顔を見せながら話した。

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全体に黒い漆塗りの盆が描いてある。その上に萩焼の菓子皿が一枚と底の浅い抹茶茶碗とが、立体的に綺麗に印刷されていた。特に、菓子皿と抹茶茶碗は、本物と区別がつかない。灰色の釉薬の美が、芸術的に強調されたものに仕上がっていた。

加持は手馴れた動作で、二人の前の印刷された菓子皿の上に、鞄から取り出した生菓子と楊枝を夫々置くと、今度は加持が開発した〈食べる固形抹茶〉を抹茶茶碗の中に入れた。


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