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孤独の扉 -3/4   [北陸短信]

                                                                           刀根 日佐志

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昨晩は雨風の強い日であった。雨は打楽器のような高い音を響かせながら、横殴りにガラス戸を殴りつけていた。倉庫のトタン屋根が、まくれ掛かっているらしく、バタンバタンという音が、一晩中鳴り止まずに続いた。何時までも、寝付けずにうとうとしていると、明け方を迎えてしまった。突然、鳴り出した電話の音に、完全に眼が覚めた。会社からの連絡で、工事現場の事故報告である。

早々に会社に向かうことにした。会社では工事部の数人の社員が、会議テーブルを囲んで議論をしていた。平蔵の姿を見ると、工事部長と工事の担当者が、平蔵の後を追っかけて社長室に入ってきた。

「早朝からお呼び出しして、事故のことで済みません」

眼を赤くして済まなそうな表情をし、低い声で話す工事部長の話が、終わるか終わらない内に平蔵は話を切り出した。

「どの程度の事故で、損害状況と、客先にはどの程度、ご迷惑を掛けたのかを、先ず聞きたい」

「お電話で概略申し上げましたが、新潟の重油タンク工事現場で、五十パーセント位を組上げた溶接仮止め中の鉄板が、昨夜の強風で崩壊してしまいました。工事現場の周辺は原っぱで、客先にご迷惑を掛ける問題は、現在発生しておりません。もちろん、人身事故などもありません」

「崩壊散乱した鉄板は、現在トラックで近くの鉄鋼加工工場まで運び、修正修理して数日中に再組み立てします。最初に決めた納期には間に合います。また追加費用は、予備費内で済みます」

工事部長が、担当者に代わり答えた。

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この部屋へ入り報告に来る者は多いが、この所、好い話で来る者はめっきり減り、芳しくない話や、後ろ向きの話が多い。生ずる事象が、不況という世情の暗さに濃密に感化され更に、より暗く装飾されたものが、濾紙で濾過されて残り、それが自分の近辺を徘徊しているかのようにさえ思えた。

平蔵は、この部屋で静かに考えごとをするとき、ふと孤独感を募らすことがある。そんなときは、部屋の外に出る。別のフロアーで社員はパソコンに向かい、ある者は設計図を広げて計算をしている。電話で誰かに仕事の指示をしている者や、顧客とテーブルで打ち合わせ中の者もいる。平蔵の顔を見ると、皆は声を掛けてくる。

「ご苦労様です」

と挨拶をする。

ある者は近寄ってきて、客先の社長さんより、

「お宅の社長に宜しくと言われました」

と話し掛けてくる。

ホッとする瞬間でもあるが、引きずっていた孤独感がやや薄れたかに思うが、払拭するまでにはいたらない。


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