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発明馬鹿 -10/16 [北陸短信]

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応接室に通された八郎は、すぐさまカタログを取り出し草本に見せた。それは前に試作していた銀行強盗撃退装置のもので、裏面には各地区の代理店が印刷してあった。富山県総代理店と草本の会社名を印刷しておいたのであった。

「八郎さん。手回しがいいですね」

「草本さん。売って下さいね」

「売る努力はしますよ」

八郎は製品一台とカタログの束を置いていった。

その後、八郎は草本から電話を受けた。

「装置を、近くの金融機関の開店に合わせて取り付ける約束をとりました。でもこの種の防犯機器は、実際に銀行強盗が入り作動して効果を挙げたことがないと、評価されないものらしく、一台だけの納品で終わりました」

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報告を聞きながら八郎は一人でブツブツと呟いた。

(艱難辛苦の物つくり、自己の発明に陶酔し時間と金を浪費すると人は言う。発明品を創っても売り出してみなければ売れるか判らない、当たる確率は一割か二割か、何と因果なものか、とかく発明は難しい)

八郎は開発に資金を投入しても回収出来ないまま、本業の警備保障会社の経営にも支障をきたしていた。取引先の商社や知人にも融資をしてもらったが、その返済も出来ぬままでいた。

ある商社からは毎日のように、借金返済を迫る電話が自宅にまで掛かって来た。

「大泉八郎さんのお宅ですか」

商社の社長からの声に聞こえたので、八郎は声色を遣い低くした声を出した。

「いーえ、違います」

良く考えると、草本からの電話であったような気もしたが、今さら大泉八郎ですと言う訳にはいかない。彼は鋭いから、借金取りに追われていると、気付いたのではないだろうか。でも、もう遅かった。

それから半年後に、八郎は草本に電話を入れた。


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