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発明馬鹿 -7/16 [北陸短信]

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駅の降車口を出るところで、草本を見かけた八郎は、にこやかに笑顔で手を振ると駆け寄った。草本も端正な顔に笑みを浮かべると、会釈して近寄って来た。

きっと草本が研究所で会った八郎と大違いで、違う人物ではないかと思うくらいに、めっぽう愛想がよいと思っているに違いない。いまの八郎が本物の大泉八郎ですと言わんばかりに、駆け寄り努めて笑顔をつくり握手を求めると、愛想よく草本は手を出して握手に応じてきた。

八郎は「お持ちしましょう」と草本の提げ鞄を持って会社まで案内した。

八郎の警備保障会社へ着くと、改めて「お待ちしておりましたよ」と述べ、八郎は草本を事務所の応接コーナーに案内した。

「装置が色々並んでいますね」

草本が、事務所内に防犯機器が並んでいるのをみて尋ねてきた。本業である警備保障の話はそこそこにして、八郎は得意そうな気持になると、色々な発明の話を始めた。発明の話になると目が輝き、熱っぽくなるのが自分でも分かったが、止めることが出来なかった。

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今日、再会した草本に八郎は、数年来の知己のような気持ちを覚えた。立ち上がると事務所の隣にある開発室に草本を案内し、現在開発中の銀行強盗の撃退装置を動かして見せた。

「窓口の銀行員はこの装置の箱に札束を入れ、強盗が来た時は、この札束を渡すとスイッチが作動し銀行の外側に取り付けた電光掲示板に(現在、店内に事件発生中、一一〇番して下さい)が流されます。これを見た外の通行人が、通報をしてくれるのです」

八郎は説明に力が入ると、額から汗が出てジェスチャーが大きくなり益々能弁になる。そうなると、相手の気持ちはどうでも良い、自分の話を一方的に喋りまくった。

「銀行内では皆が動顛しているので外の通行人の力を借りるのは、今までにない考え方ですね」

と言いながら草本が八郎の顔を覗き込んできた。

八郎はこの人はなかなか壷を突く、良く分かっている方だと思ったので、草本の目を見詰めて話を続けた。


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