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発明馬鹿 -3/16 [北陸短信]

                            刀根 日佐志

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八郎は部長の彫りの深い顔を覗くようにして見たが、自分と同年代の五十近いと思われる彼の頭はもう白髪が目立ち始めていた。しかし、それが却って研究者らしく見せているのかと思った。草本は部長と正反対に黒髪がふさふさしており、一段と若く見え二人が同期には見えなかった。

「午後に遠藤裕子技術庁長官が来所され、所長が海外出張中なので、私が研究所内を案内しました。大泉八郎さんは、長官になられる前に、秘書をされていたそうですね」

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部長は笑みを浮かべ、草本と八郎の顔を見ながら話をした。

「それは大役だったね。あの有名な元ニュースキャスターの美人長官ですか」

 静かな口調で話しながら、草本は顎の辺りを撫でながら微笑んでいた。

「そうなんだよ! 長官は深紅のスカートに紫色のコートを着こなし、白い肌と京人形のような美しい目鼻立ちを引き立たせ理性的に見せていたよ」

部長は大役を終えた安堵の気持もあったのか、饒舌に話を続けた。

「それは、良いことをしたな」

「さっき長官から話を聞きましたが、実家が温泉旅館で、今でも実家に帰ると厨房に入り手伝いをするらしい。糠漬けだって上手ですよと話していたよ。なかなかの庶民派ですね。大泉さんは良くご存知なのでしょうけど」

 部長は同意を得るかのように、八郎に視線を向けた。八郎は否定も肯定もせずに、黙ってその話を聞いていた。

「あの美人長官が、沢庵を刻んでいる姿を一度見たいものだ」

 草本は顔をほころばせ軽口をたたくと、八郎の表情を窺うようにした。八郎は二人の話の聞き役に回り、無口な性格を装った。

「ところで、君は長官に何の説明をしたのかね」

「長官に研究所の概況と現在研究中の狭い飛行場でも、離着陸可能な航空機の研究について話をしたよ」

 八郎が聞いていると、さすがに同級生だけあって、会話の中に入り込めない位、彼等の間には距離がなかった。

「大泉さん。もう五時を過ぎましたので、各研究室は閉めております。見学されるのでしたら日を改めた方がよろしいかと思います。発明のアドバイスを求めるのでしたら、草本さんが適任です。今日は三人の顔合わせだけになりましたが、次回は時間をとり、お打合せをしましょう」


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