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発明馬鹿 -1/16 [北陸短信]

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                                                                            刀根 日佐志

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発明を形にするのは難しい。その出来上がった製品を売るのは、もっと難しい。大泉八郎にとっては永遠の課題であった。いや世の発明家にとっても、共通の課題かも知れないとすら考えていた。創った物は容易に売れないことは、身にしみて感じていたが、発明から逃れることは出来なかった。

ある夜、繁華街を歩いていたら、銀行のビルの屋上にネオンサインが輝いていた。それに目が留まると、八郎はふとある考えが頭をよぎっていった。

「銀行強盗事件が銀行内で発生したら、行員は気が動転して警察への通報どころではない。自動的に屋外のネオンサインのように銀行強盗発生中のメッセージが出されたなら、通行人が警察に通報してくれる」

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 一人で呟くと、これは凄いアイデアだと、両腕を曲げて胸の前でぐるぐる回すと、自画自賛の叫びが頭の中を支配して、外の事柄は入り込む余地がない。数日後には、開発室にこもり始めた。

八郎は社員五人の警備保障会社を営んでいたが、仕事は部下任せで、発明で明け暮れる毎日を送っていた。現在は、銀行強盗の撃退装置開発のため、自宅にも帰らず会社の開発室に寝泊りしてそれに没頭していた。

徹夜の夜食は会社近くの惣菜店で買ってきたものを皿に載せて食べていた。もう何日になるのか、汚れた皿や食器類が山になっていた。これは何とかならないだろうかと考えると、ふと或る考えが閃いた。

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八郎は以前、国会議員、遠藤裕子の議員秘書をしていた。先般、遠藤裕子は技術庁長官に就任した。八郎は秘書時代に感心していたが、長官は頭の回転が速く、応答がスピーディーであった。先送りすることを大変嫌っており、何でも直ぐに解決することを習慣としていた。議員になる女は男勝りと思うが、そんな感じはなかった。一つ一つの仕草が女らしく、愛らしかった。女性ならではの細やかな心遣いと、暖かみがあった。彼女の側にいると女の魅力を存分に感ずるのであった。秘書当時、八郎は新婚であったが、遠藤裕子議員に思慕の念を抱いていた。もちろん一方的な想いであって相手に伝えたことはない。


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