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還って来た日々 -8/25 [北陸短信]

                                  刀根 日佐志

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河原に続く道を少し登ると、平坦な所に馬鈴薯畑がある。茎には濃い緑の大きな葉をつけ、先端に白い花が咲いている。風が吹くと大きく揺れた葉の間を、数羽の白い蝶が見え隠れし、風に逆らったり、また風の流れに乗ったり、少し強い風には吹き流されて飛んでいる。

良く見ると幾つもの群れが、大きな動作で何かの音曲のリズムに合わせて、純白の羽根で踊りを舞っているようであった。「春が来た」を歌ってみる。確かに、その旋律に調和しているように思われた。

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三郎はじっと見とれていた。

「サブ、なに見とんが! はよ行くまいか(早く行こう)」

ナミがサブの袖を引っ張った。

「ナミ、良く見てみい。蝶が踊りを踊っとる」

 ナミは投げ遣りな目線で見ながら、蝶には関心を示さない。

「あんなん、踊りじゃないちゃ、飛んでいるだけやちゃ。みんな待っとる。行こ!」

「ナミ、よう見てみい。音楽の調子に合わせて踊っとるように見えんか」

 三郎はなおも、蝶に拘った。

「なんも(なにも)見えんちゃ。サブ、はよう行こ」

「ほんなら、行こか」

三郎とナミは皆の後を追って走った。

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馬鈴薯畑を抜けたところで皆に追いつき、そこから坂道を登ると、一面に女竹の林がひろがっている。大人の背丈くらいの細い女竹が、入り乱れて生い茂り、その周囲には勢力争いをしているかのように、雑草も無造作に生えている。

その横に、短い草が生い茂る細い道がある。まだ青大将の残像が瞼にちらつき、三郎は竹林から突然這い出してこないかと、薄気味悪く感じた。とても先に立って歩く勇気はない。でも蛇なんか、平気であるという強がりの表情を見せていた。

「トシオ、お前この道は慣れとっから先頭歩けよ」

 三郎が言うと、乗りやすいトシオは得意げに言った。

「皆、わしの後へつけよ、わしが先頭を行くちゃ」


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