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飛行機、特に民間用輸送機の将来像(2):飛行機の更なる進歩  [稲門機械屋倶楽部]

                        ・・・・・ 2009-09-15  MEW36 村尾鐵男

1 高空気象の変化と姿勢制御技術のさらなる進歩

皆さんは飛行機に乗られた体験を数多く持たれているはずですが、40年とか50年前に乗られた際の機体の揺れと、最近になって乗られたときの揺れを較べられて、違いを感じておられますか。 

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私は大勢の方にこの問いを発しておりますが、大半の方々は「今と以前と、飛行機の揺れに変わりはない」と答えられておられます。

そうであろうと私も思います。しかし、もう一度よく考えてみて下さい。この間に飛行機の姿勢制御と姿勢安定の技術は、当然のことですが、長足の進歩を遂げました。その技術の進歩があっての昔と今の同じ揺れです。

 

昔の飛行機も今の飛行機も、巡航飛行中に、たとえば、左右のどちらかに突如大きく傾いても直ぐに元の水平姿勢へ戻ります。或る巡航高度を設定して上昇を続け、その高度に達すると、昔の飛行機は迎角6度くらいの上向き姿勢から突如水平姿勢へ変わりました。今の飛行機は設定高度へ達する少し前から徐々に機首を下げ始め、設定高度で滑らかに水平飛行へ移行します。これは自動操縦装置の技術の違いでありますが、設定した高度と姿勢を保つ目的に変わりはありません。違いはその応答速度にあります。応答速度が速ければ、それだけ制御に要する時間の余裕が得られ、より細かい制御、言い換えれば、乗客に不快感を与えない制御が可能となります。応答速度の速い遅いは実感としては捉え難いものです。飛行機の姿勢制御系統は電子技術だけでなく、油圧系統や電機モーターと歯車の組み合わせも含まれるので、電子技術の進歩ほどには応答速度が向上することはありません。しかし、概念的には真空管と半導体ほどの違いはあります。

 

元の設問に戻りますが、最新鋭の自動操縦装置、即ち姿勢制御技術でもありますが、この最新鋭技術の下でも、昔の原始的とも言える自動操縦装置の下でも、機体の揺れが変わらぬと感じておられる事実は、それだけ高空での気象変化が激しくなっていることを意味します。

 

テレビやラジオの気象予報も私達が住む地表の天気予報と、高々富士山頂上の気象状況だけを報せて、飛行機の飛ぶ高空については何も言いません。高空気象は世界の気象台と気象衛星が得た観測値をワシントンにあるWWC(世界気象センター)に集め、ここで地球全面の1000フィート毎の気象観測値に整理し、これを各国の中央気象台へ一時間間隔で送って来ます。航空会社はこの数字化された膨大な気象観測値を直接得て、運航航路毎の高層気象図を作成し、これを乗務員に知らせます。

 

気象庁は何も言いません。航空会社も乗客に不安感を抱かせぬように何も言いません。しかし、高空の気象は次第に悪化し、不安定な状況が増えつつあります。それを補って来たのが自動操縦と姿勢安定の技術であり、その進歩であります。

 

最近の天気は不自然だと思ってはおられませんか。雨が降れば局地集中の豪雨になり、風が吹けば、送電線を切断し大木を倒す強風となります。地表での天候変化が異常な状態にあり、高空ではさらに激しい気象となっています。

 

乱流、航空用語ではAir Turbulenceと呼びますが、この乱流が高空では次第に激しく、且つ、突然に生ずる傾向が顕著になりつつあります。平穏に飛行を続けていた航空機が、突如、大きな揺れに見舞われ、乗客や乗務員が転倒し負傷する実例がしばしば起きています。

 

高空だけではありません。地表近くで生ずる局地的気流降下、マイクロ・バースト(Micro Burst)として知られる現象ですが、これが空港内とか空港近くで発生し、着陸進入中の航空機が遭遇すると地表に叩きつけられることになり、現にこの事故が起きております。

 

マイクロ・バーストは航空機搭載の気象レーダーでも、管制塔が備える気象レーダーでも発見できず、ましてや広域気象観測を旨とする気象庁の観測網で発見することもできず、まことに始末の悪い気象現象です。しかし、発見方法がないわけではありません。マイクロ・バーストはドップラー・レーダーで発見することが可能で、国内主要空港での設置が始められています。

 

次第に悪化し、しかも変化の度合いが急激で激しさも増す高空気象は何に起因するのか、未だ判りませんが、おそらく地球規模の環境悪化と結び付いていると各方面で推察されています。でも、その中を飛ぶ飛行機はどうすればよいのか。

その一つの対応策は、機械系統、油圧系統、電機系統、電子系統、総てを併せて自動操縦系統全体の応答速度をさらに速めることだと言われます。

 もう一つの対応策は、高空での空気の乱れを遠くから早く探知し、その空域を避けて飛ぶことだと言います。おそらく二つの対応策が共に研究されて統合された対応策となるでありましょうが、皆さんも御存知の通り、電子装置の応答速度に機械、油圧、電機系統の応答速度を合わせることは事実上不可能であり、少しでも近付けるための容易ならざる努力が求められます。 

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話の向きが少々変わりますが、乱流に遭遇した場合、通常は自動操縦を解除して、操縦士による手動操縦となります。しかし、人間の頭脳は自動操縦装置より速く働いても、人間の手足はそれほど速くは動かず、熟練した操縦士の手足と言えどもその動きは最新鋭の自動操縦装置の応答速度よりも遅いはずです。 

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ここに、いわゆる “Man-Machine System” の難しい問題が生じます。 以上、明解にせよ朧にせよ、現段階での解答はありません。皆さんは如何にお考えになりますか。いずれにせよ、今後の航空技術が乗り越えなくてはならない難問です。

誤解を恐れずに言えば、操縦士が搭乗せず、自動操縦装置だけで飛ぶ無人機の方が安全性が高まるかもしれません。 

(3)に続く..

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飛行機、特に民間用輸送機の将来像(1)

http://dorflueren.blog.so-net.ne.jp/2009-09-18


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ぼくあずさ

村尾鐵男さん
高層気象図の使用を初めて知りました。
旅客機に搭乗し始めた頃は、着陸許可待ちの超低速の旋回飛行が大嫌いでした。松山から伊丹へのルートで、異常な急降下が続いた時は生きた心地がしませんでした。飛行機の揺れは、今では記憶が薄れました。若い時は楽しんでいた海外出張も、終いにはロスや欧州からの長距離飛行は苦痛でした。日本車の性能が改善された様に、旅客機の制御も飛躍的に向上していることをお教えいただきました。謝々!


by ぼくあずさ (2009-09-26 13:33) 

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