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磨耗と腐蝕と疲労との闘い -5/11 [稲門機械屋倶楽部]

                                   2012-03 WME36 村尾鐵男

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疲労

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Aloha_Airlines.png 1988428日、ハワイのアロハ航空243便は、飛行中に主翼の上に位置する長さ10mほどの客室部分が吹き飛び、客室乗務員の一人が空中へ吸い出される事故がありました。しかし、この便は無事に緊急の着陸に成功しました。

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 読者の皆さんの内には、この事故を記憶されている方も多かろうと思いますが、金属疲労による典型的な航空事故でした。

 この機種はB737-200型で、1969年にボーイング社で製造され、この日の事故までの20年間近く、33,133時間を飛び、89,090回の飛行をしていました。尚、ボーイング社の保証は飛行時間が50,000時間、飛行回数が75,000回でした。

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Comet.jpg 戦後の英国が威信を掛けて開発したジェット旅客機コメットも金属疲労で1954年に二回も空中分解しました。当時のBOACと南ア航空の二機が地中海上空で空中分解してイタリア近海に墜落した二回の事故で、英国政府はコメット機の運航を停止させました。

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 細い針金を同じ場所で折ったり伸ばしたりを繰り返すと、やがて折れて切れますが、これが金属疲労です。

 飛行機は客室内と貨物室の一部を与圧して、概ね0.8気圧に保っていますが、飛行高度が高くなると客室内の気圧が外気圧より高くなって胴体が膨らみ、飛行高度が下がり地上へ戻ると胴体は元の状態へ戻ります。この胴体の半径方向への伸び縮みを長年に及んで繰り返す内に、胴体各部に金属疲労が生じ、特に腐蝕や亀裂(クラック)が生じて強度が低下している部分が破断します。

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 アロハ航空の場合は、飛行時間に対して飛行回数が多いのですが、これはハワイ諸島内の路線が短いためで、その分だけ、飛行時間の割には胴体断面の伸縮回数が多かったと推測されます。

 他人を批判するのは私の好みではありませんが、アロハ航空の整備陣は金属疲労に対する技術上の認識がかなり遅れていたと考えられます。


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早稲田大学鋳物研究所スキー部長

コメットのことは、中学の技術家庭の授業で聞きました。
その後、仕事でアルミの疲労破面の観察から亀裂の伝播方向やその起点の推定等をやりました。
ただ、実際の疲労破面は教科書の写真とは異なり、なかなかストライエーションを見つけることが困難であることが多いです。汚れや疲労破面同士がこすれることに起因するようです。
by 早稲田大学鋳物研究所スキー部長 (2012-03-31 20:29) 

村尾鐵男

早稲田大学鋳物研究所スキー部長閣下へ
上記のコメント、有り難く拝読致しました。私は、残念ながら、金属疲労による亀裂や破断面の教科書を読んだこともなく、その写真を見たこともありません。私の体験では、亀裂も破断面も一様ではなく、定説的な判断は殆ど出来なかった記憶があります。
昭和40年代半ば、岩戸景気の真っ最中の頃、国内二大航空会社が年末を控えて北海道からの塩数の子の輸送に追われ、営業部門は必死に荷集めに奔走し、少々梱包が不完全でも引き受けました。
翌年春になり、数の子から滲みでた塩水で貨物室の床が抜けそうになっているのを発見して、即運航停止、緊急の修理に取り掛かりました。これは疲労ではなくて、腐蝕ですが、機種はB727型です。この機種の床板は、勿論、強度部材の一部を構成しますが、アルミ合金の普通の型鋼ではなく、分厚い板から場所によって厚みの変わる削り出しの板でした。羽田の工場にある工作機械を総動員してこの床板部材を削り出しました。
飛行機も機械ですから、使い方を誤り、僅かに気を抜いただけで、とんでもない代償を払うことになります。
by 村尾鐵男 (2012-04-01 07:01) 

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