夢を追う男たち -9/18 [北陸短信]
.by 刀根 日佐志
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荘一は精神統一することについては、同意できたが、「お告げ」になると納得がいかない思いで彼の顔をじっと見入った。だが、彼は真剣な眼差しで語り続けた。その後も何度かこの言葉が出てきた。「飛んでいる鳥を落とす」ことも見ていない荘一は、人格そのものに胡散臭さを感じる思いであった。会社経営者であれば言葉に気をつけなければ会社の信用に関わるように思えた。その後、鯵川とは何度か会う機会があった。
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街中では、鯵川の発明した看板、料亭内に設置された生簀水槽をよく見かけた。これで、彼の会社の基盤が出来たということも人伝に聞こえてきた。
数年後、ある会合で鯵川と会うと、彼の口から思いも寄らない言葉を聞いた。
「織田信長が本能寺で明智光秀の謀反にあった。自分も専務の謀反にあった」
表情を曇らせると、言葉少なに述べると、それ以上のことは言わなかった。
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後日、彼の会社に出入りする人から聞くと、工場増設の折、会社が増資をした。専務が土地を持っていたので、それを現物出資したらしい。その結果、出資比率が専務の方が多くを占めることになり、臨時株主総会で彼は会社を負われたと聞いた。
彼のことだから、必ず再起を期すことであろうと、荘一は四角い顔を思い浮かべた。
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(三)
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三枚目の写真は、十年以上前、韓国へ行く時に出会った個性豊かな町の発明家であった。
機械の販売で荘一はソウルへ行くため早朝に大阪空港へ着いた。だが、夕方近くまで待たされ、やっと搭乗手続きが始まった。
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韓国行きの手続きを終えた後ろ姿に、疲労感を漂わせた多くの搭乗客が、荷物を抱え大阪空港の出発ゲート待合室へ、気怠そうな足取りで入って行った。あとは機内への搭乗を待つだけである。
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