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夢を追う男たち -2/18 [北陸短信]

                           .by 刀 根  日佐志

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                                         (一)

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最初の写真を手に取り眺めると、十数年前の鮮明な記憶が浮かんできた。それは中国の北京であつた。朝の通勤時間、多くの人が歩道を足早に行き交う、その脇を自転車の集団が通り過ぎる。街路樹が初夏の光を浴びて優しい木陰をつくり、その狭間で朝日を浴びると、明るい元気そうな大勢の顔が見える。その朝、見た光景は午後には一変していた。人はまばらでギラギラした陽光が降り注いでいる。ビルのコンクリートは朝から吸い取った熱気を放出し、近寄るだけで夏の昼下がりを意識させた。

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北京の銀座街と呼ばれている近くのビルを背景に、二人の日本人が写真に映っている。荘一は商用で旅行中に、街角のレストランから出たところで、東京から来たという二人連れの日本人と、出逢ったことがある。一人は奇遇にも荘一の元勤めていた会社の同僚だ。その時、彼は荘一に彼と同年代と思える連れの加持を紹介した。

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名刺交換したときに驚いた。加持の名刺は透明なビニールで出来ている。ビニールの名刺と、一枚の名刺大の紙が添えられていた。表は黒色、裏は白色の用紙であった。透明なビニール名刺には、白文字で社名と名前が印刷され、黒で英文字が記されていた。

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添付された用紙の黒色側をビニール名刺に当てると、日本語の白文字が浮き上がり黒文字は消えた。用紙の白色側をその名刺に当てると、黒で書かれた英文字が浮き上がってきた。

さらに彼の顔を見て奇異に感じた。揉み上げの左側は極端に長いが右は短い、そのアンバランスを眺めていたら、彼も視線を感じとり「私の顔も一枚の名刺です」と彼は、にっこり笑い手を差し出した。荘一も笑顔で、差し出された手を握り、挨拶を交わして別れた。


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