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夢を追う男たち -1/18 [北陸短信]

                         .by 刀根 日佐志

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 夕食後、書斎で樽本荘一は先月、海外旅行したときの写真を整理していた。手を休めて、視線を本棚に向けた。三十数冊の分厚い写真帳が並んでいた。そこからは、重そうで棚板の悲鳴が漏れてきそうであった。

さぞかし、その中に、忘却のかなたに埋没していた時間や空間、情景、風光明媚を誇示する自然、多様な人の顔が詰め込まれているのであろうと考えた。耳を澄ますと聞こえてくる。吐息や喚声が……。

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目を凝らすと、喜怒哀楽を秘めた何食わぬ顔、かんかんがくがくと議論する顔、大言壮語する顔が見えてくる気がする。これら、雑多な物の満ちた重量感が、棚板に伝達されているに違いない。と思い数冊を取り出して見ていると、面白いことに気がついた。

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微笑んだ被写体が多い中で、ひと際、高笑いが聞こえて来るような笑顔を見せる人物の写真を、数枚取り出してみた。従業員三十人の工事会社を経営している荘一は、仕事上で知り合ったと思われる複数の人物写真であった。

その顔は、笑みを満面にたたえているが、顔つきからうかがい知れるものは、独善とも思われる自信を誇るような笑い顔であった。だが、重みと福福しさに欠ける表情に思えた。

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荘一の記憶が薄れている面もあるが、彼等の共通点は、我が強く、自信家で、また町の発明家でもあり、人様より少々変わっていた人物のように感じられる。

 そこへ妻の由紀と高校生の一人娘が来て、横で一緒に見ていたが「とくに、特徴のある写真はこれだわ!」と四枚を指さして二人とも部屋を出て行った。


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