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創作短編(31): 坂田金時 -6/9 [稲門機械屋倶楽部]

                                     2011-10 WME36 梅邑貫

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 金太郎も二十歳前後の立派な大人になった永祚(エイソ)二年(990年)三月二十六日、足柄峠を源頼光の主従が通り掛かった。

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 源頼光(ミナモトのライコウ、或いはヨリミツ:948-1021)は、日本の歴史上、初めて武士団を結成して平安王朝を支えた武将源満仲の長子である。父の跡を継いで摂津國多田(現兵庫県川西市)を根拠地として摂津源氏の祖となった。又、異母弟には大和源氏の源頼親と河内源氏の源頼信がいる。

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「殿、向うの木陰に馬を牽き、弓矢を持ちおる者がおりまする」と、供の渡辺綱(ワタナベのツナ)が頼光の注意を促した。

「うん。見えておるが、怪しき者ではなかろう」

「殿、よう御覧下され。馬の背に括り付けたるは二頭の猪。あの者が矢にて射ったに相違ござりませぬ」

「うん。さすれば手足(テダレ)の者と見受けるが」

「それがし、尋ねて参りまする」

「うん。だが、刀は外すのだ。あの者が驚くからのう。驚くと矢を射るやもしれぬ」

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 渡辺綱は源頼光の臣下の内で、一、二を競う剛の者であるが、このときは供頭として随行しており、主君源頼光を警護する責任を帯びていた。

 金太郎は近着いて来る武者を見て、身構えるか逃げるかと戸惑ったが、怖い顔が笑っているのでその場所に留まった。

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「名は何と申すのじゃ」

「金太郎」

「この辺りに住みおるのか」

 金太郎は背後を指差し、「この山の中じゃ」と答えたが、金太郎の側を離れない犬と猿は敵意を隠さず、渡辺綱があと一歩でも近着けば、直ぐに跳び掛かりそうだ。

「金太郎殿、この犬と猿をどうにかしてくれんか」

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 金太郎は驚いた。この山中では親しくても「金太郎」と呼び捨てだが、今初めて金太郎の後に「殿」を付けて呼ばれた。金太郎は犬と猿の頭を撫でて、静かにしろと命じたが、金太郎の渡辺綱への警戒心は「殿」と呼ばれて消えた。


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大嶋

何か面白くなりそうな成り行きに期待しております。
by 大嶋 (2011-11-01 06:55) 

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