創作短編(31): 坂田金時 -2/9 [稲門機械屋倶楽部]
2011-10 WME36 梅邑貫
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八重桐は作業場の隅の竈(カマド)で細くなっていた火に木屑を足して火勢を強め、湯を沸かし始めた。
「お父さま、先ずは茶でも淹れましょう」
「ああ、そうだな」
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十兵衛の木彫りはその荒々しい様相が評判を呼び、京でも売れた。足柄と京を結ぶ商人(アキンド)が足繁く現れては十兵衛の木彫りを仕入れて京へ持ち帰るのだが、その顔見知りの商人が数年前に八重桐を嫁がせる先が見つかったと言って、八重桐を京へ連れて行った。八重桐の利発さと美貌を商人も認めていたのだ。
八重桐が嫁いだのは京の宮中に仕える坂田蔵人(サカタのクランド)であり、ほどなく八重桐は身籠った。
十兵衛はふと思い出すことがあって、指を折って数え始めた。
「八重桐、京へ行き、坂田殿に嫁いだのは天暦(テンリャク)十年(956年)の五月であったな」
「はい」と、八重桐は茶を飲みながら軽やかに答えた。
「うん、今は応和二年(962年)。お前が京へ行ったのを数年前と思うておったが、もう六年も経っておったわ。天子様は同じ村上成明様、思い違いをしておったわ」
「はい。私が京へ参ってから六年が経ちました」
「そうだな。だがな、八重桐、子ができるのが遅かったのう」
「はい。蔵人様は身体が弱くて、いつも何かの病を抱えております故、子のできるのが遅くなりました」
「そうか」と頷いて、十兵衛も八重桐が淹れた茶を静かに口へ運んだ。「それで、八重桐、いつまで足柄に留まれるのじゃ」
「お腹の子を産み、しっかりと育つまではお父さまと一緒です」
「そうか、嬉しいのう」と、十兵衛も目を細めて茶を味わった。
「どうじゃ、腹の子は男か女か。どちらじゃ」
「お父さま、それだけは判りませぬ」
「腹の中で、子が激しく動いておるか」
「はい」
「ならば男の子じゃ」
ウチの二女は、この言葉通りに激しかったそうですがぁ・・・。
その状態に耐えた配偶者様には(激しく)感謝!二女誕生に感謝!
そして、二女が金太郎の腹カケをした写真が、なぜか、あります。
by hanamura (2011-10-28 21:55)