SSブログ

孤独の扉 -4/4  [北陸短信]

                                                                               刀根 日佐志

.

経営者の会合に出席していた平蔵は、経済評論家の講演を聞いていた。どの講師も景気低迷は長期に続くため、企業は合理化に力を入れ、IT技術を活用し、得意分野に経営資源を集中させろと言う。また独自の商品開発をしなさいとも力説している。

休憩の合間や懇談会の席上では、

「景気が悪いね!」

「仕事が無い!」

「安い仕事ばかりで!」

「〇〇社は危ないらしい」

経営者の愚痴やら本音みたいなものが、耳に飛び込んで来る。皆が真剣に悩んでいることが分ってしまう。

平蔵までも、その場にいると、木枯らし吹きすさぶ森の中に、佇んでいる寂しい自分を連想させさせてしまう。

あるカリスマ経営者は、以前に述べていた。

「景気が悪い、景気が悪い、と口々に云うではない。本当に景気が悪くなってしまう」

と話していたが、あの話はうなずけるものがある。

本当にその言葉が充満すると、周りの雰囲気を支配してしまう。

.

数日間悩んだが、このままズルズルと経営状況を悪化させ、立ち行かなくなるまで、傷口を広げるわけにはいかない。社員に、痛みを与えることになるが、会社存続のため不良採算部門の廃止を、断行するしかなかった。

先ず幹部を集めリストラの断行を話し、翌朝、社員全員を集め、苦渋の選択をするまでにいたった背景の説明も充分にした。

彼等は等しく暗い深刻な顔をし、社長の顔を直視しようとはしない。顔をずらしたところに、視線があった。これを見ると、彼等には大きな衝撃が走っている。充分に読み取ることが出来る。

だが、考えた末の決断で進める以外に方策はなかった。できる限り、犠牲者を少なくすることで、乗り切る考えを胸に秘めたまま話し終わると、平蔵は「孤独の扉」を開き部屋に引きこもった。

                                                         完


nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:blog

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。