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孤独の扉 -2/4   [北陸短信]

                                                                           刀根 日佐志

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今日一日があっという間に駆けて往き、会社に戻れば夕闇がせまっていた。書類箱の決済書に目を通し終わり、収益改善の方策に、思いをめぐらしていた。すると、窓から月明かりが差し込んでいるのに気が付き、月を見上げると雲が微かにかかり、薄く影を作りながら移動していた。何故か平蔵は、急に孤独感に襲われてくるのを覚え、書類を閉じ、何時までも月を見つめていた。

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平蔵は、最近めっきり増えた白髪に、手を遣り眉間の皺を一層深め、各部長から出てきた収益改善の緊急対策案を見ながら、目新しい方策のないことに、失望を感じていた。各部長は自身の身の丈で、物事を考え提案してくるから、身の丈に合ったものしか出てこない。これを打ち破り、その域から脱することを、拒んでいるかのようである。

窓外に目を遣ると、もう暗くなった東西に延びる道路には、小さく見える車のヘッドライトが、幾つもの光の点をなして、スーッと夜陰に消えて行ってはまた現れる。もうそろそろ緊急対策の結論を、出さねばならないと考えながら、もう何日になるであろうか。会社の余力が底をついてきた今、このままでは奈落の底にはまり込み、赤字は大きく膨れ上がり兼ねない。そんな焦燥感は、各部長に緊迫感となって伝わっていない。そのことの歯痒さで、平蔵は苛立ちを覚えた。

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朝、出社すると、商事部長がノックもそこそこに入ってきた。彼は緊張して話をするときには、眼鏡のつるに手をかけ眼鏡を動かす仕草をするのが癖である。二~三回これを繰り返して、話し始めたところを見て平蔵は、嫌な予感がした。

「取引先のB社が不当り手形を出したという情報が入ったので、担当者が今朝、B社へ直行しています。帰り次第連絡にきます」

商事部長は、いったん席を立ったが、やがて帰ってきた担当者と一緒に、部屋に入ってきた。

報告によると、B社には聞きつけた債権者が、大勢詰め掛けており倒産を示す張り紙があったと言う。

「ところで、B社には売りと買いがあったと思うが」

平蔵の問いに商事部長は、予め調べたメモを取り出した。

「先方からの受け取り金額と、当社からの支払い金額とで、相殺すると多少貸し倒れが生じます」

詳細なメモ書きを商事部長は、平蔵に手渡した。そして付け加えた。

「申し訳ありません」

取引先を定期的に精査しているが、この所、多くなった会社倒産の新聞記事を見て、問題が生じなければよいがと、いつも気にかけていた。今回は何とか軽度で済み、救われた気持ちだが、気を許すことは出来なかった。


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