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孤独の扉 -1/4   [北陸短信]

                                                                              刀根 日佐志

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窓外には、雪をまとった立山連峰が、雲ひとつない澄み渡った空の下で雄大に聳えている。険しさを誇示するかのように、雪をもよせ付けない切り立った褐色の岩肌を、所々に露出させ、一大パノラマを一層、神秘的に見せている。冬を迎えたこの季節、空気も澄みきって、視界を遮るものがない。

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朝、畠山平蔵が出社すると執務に就く前に、立ったまま虚ろな眼差しで、二階の自室の窓越しにこの光景を眺めていた。そして、連日、深夜までの仕事で、引きずっている気だるさを感じていた。五十を過ぎると、夜更かしが体にずしんと堪えるようになったと感じながら、昨夜の議論を思い浮かべていた。

売上げの落込みに、歯止めがかからない工事部門は、更に赤字工事の受注が収益を大きく悪化させている。営業部長の、何もかも景気悪化のせいにした報告に、いささか辟易していた。

今後の対策について数時間、延々と議論が続いたが、採り上げるべき妙案はなかった。今まで会社は、発展の一途を辿ってきた。ここ十年で社員も三倍の六十名、売り上げも三倍近くなった。したがって、不況が来ると落ち込みも大きいものがあった。

平蔵は事務の女性が入れたお茶の、まだ保たれている湯呑を通して感ずる温もりを、手のひらで受けていた。それが心の安らぎを、与えてくれるかのようであった。満足げに、飲むこともせず、その湯呑を持ったまま、立ち尽くし、雪の立山を何時までも眺めていた。

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ノックと同時に

「おはようございます」

秘書係りが入って来た。

「おはよう!」

反射的に答えた平蔵は、自分のややトーンの高い声にハッとし、我にかえった。

「昨日ご連絡がありましたとおり、今朝九時に坪藤商会の社長が、来社との事です。また十一時に大船産業の支店長、午後からは商事部の部長と得意先回りとなっています」


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