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発明馬鹿 -14/16 [北陸短信]

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事務所内の和室では、八郎の会社に出資をした中年過ぎで、有閑マダム風に見える女性が寛いでいた。八郎は、今からお茶会へ行くという和服姿の二人に挨拶を交わし彼女達との話に興じた。

「仕事、仕事で奥さんをほったらかしておくと、また逃げられるわよ」

 八郎の過去を良く知る小太りの女は言う。

「今の女房は理解があるから大丈夫!」

 八郎は自信ありげに笑った。

「でも奥さん、構って貰えないと浮気をするわよ」

 もう一人の女がジャブを飛ばした。

「なーに、久しぶりに帰るとたっぷりサービスするからね」

 八郎は負けずに言い返した。

「あら、いいわね! 私はもう何年もあちらの方ご無沙汰よ」

 彼女たちは、しばらく雑談をしていたが、お茶会へ出掛けて行った。

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 午後になったので、八郎は社員と草本を車に乗せて、伊香保温泉で老舗旅館として知られている第一湯本亭の地下室に入った。二十坪位ある地下室は、天井の蛍光灯の灯りが薄暗く申し訳程度に辺りを照らしていた。室内は、じめじめとしてかび臭く、四方の壁や床も黒く汚れている。

直径八十センチ位の古びた漬物桶が室内に一〇本以上、雑然と置かれて、糠漬の酸っぱい香りが鼻を衝いた。床から浸透してきたと思われる地下水が、その床を湿らせていた。聞く所によると時々、モップで床に染み出た地下水を吸い取り清掃していると言う。

八郎はしゃがみ込み、漬物桶の近くを念入りに乾いた雑巾で床を拭いて漏水箇所を探していたが、やがて亀裂を見つけて「此処だ! 此処だ!」と大声を上げた。

八郎はセメントと砂と開発中の防水剤を混ぜた防水モルタルを、床に念入りに塗り始めたので草本も手伝ってくれた。作業が終わりかけたので、屈み込んでいた八郎と草本は目線を床から上に移した。すると眼前に、スカートを穿いたスラリとした綺麗な二本の足があり「あっ!」と声を出しそうになった。


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