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発明馬鹿 -13/16 [北陸短信]

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草本は僅かな情報を与えても、問題点の指摘が的確で、何でも透けて見られている気がして気に食わない。レシピを言わなければ良かったという気もして、八郎は草本を凝視した。俺は自分でも、根は誠実であると思うが、今のような気持ちになると、事実は包み隠してしまおうとする気にもなる。それが透けて見られると、多分に大道商人のような薄っぺらな駆け引きに似たものを、相手に見せてしまうことになるが。

不利な点をさらけだし、相手の知恵も借りて改善しようとするまで、どうも素直になれない。

「八郎さん、もう一歩踏み込んで防水コンクリートの技術評価をした方が良いですよ。それに基づき改良を加えて、より良いものを作って下さい」

アドバイスをすると、草本は二~三の大手建設会社、化学会社の研究所に勤める技術者を紹介してくれた。そして、先方へも連絡を取り協力を依頼して、草本は帰宅して行った。

しばらくたってから、八郎は報告を兼ねて草本へ連絡をした。

「草本さんのお友達からアドバイスを貰いました。薬品の配合もかなり見直しました。その防水コンクリートのテスト施工をするので見に来て欲しい。本多部長にも一度見てもらいたいと思い連絡しました」

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 今日はやっと出来上がった防水コンクリートの初めての施工する日で、朝から八郎は気持が昂ぶっていた。東京出張への帰りに事務所に立ち寄った草本を、八郎は事務所横の広間に案内した。

椅子に座り、秋の暖かい日差しを浴びていた八十才で頭の禿げた老人を、八郎は草本に紹介した。この老人は曙建設の曙会長であった。椅子に座り、八郎の会社の社員が庭で作業する姿をじっと見ながら、八郎にときどき質問を投げかけていた。

八郎は曙建設から、数箇所のコンクリート防水工事の施工依頼を受けていた。何れも地下水の漏水で難儀しており、大至急、取り組んで欲しいと催促が来ていた所を、午後から見に行くことにしていた。八郎は曙会長から、成功すれば防水工事を大々的に発注すると約束を貰っていた。


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