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発明馬鹿 -9/16 [北陸短信]

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もう、お見通しである。一ヶ月前までは連日の徹夜で、八郎は寝袋に大変お世話になっていたのであった。撃退装置を完成させるため、開発室に昼夜閉じこもり研究に没頭した。毎日、疲れ切った身体でテストを繰り返すが上手く作動しない。寝袋の中に入り目を瞑るが、改良点が浮かぶと、無意識に寝袋から飛び出し、作業台に立っていた。そして、装置の半田付けをして、半田鏝から立ち昇る青白い乾いた煙を吸っていた。何度も作動テストをするが失敗らしい。時間は無情にも過ぎ、もう夜は白々と明けていた。六ヶ月もこの繰り返しをして何とか装置が仕上がったのであった。

「かなり色々な開発に費用を掛けておられる様子ですね。その一方で、販売しても売れていないのでしょう」

過去に開発した製品が、開発室に山と積まれてあったのを、草本がじっと見ていた。草本は八郎の開発努力を評価するよりも、無駄になった開発を追及してきた。八郎はその通りに違いないが、うるさいことを言う奴だと、腹が立ってきた。ひとこと言うことにした。

「売れるかどうかは、作ってみないと分かりませんよ」

「市場調査で裏づけのないものは、作るべきではありません」

 草本はいとも簡単に言い放つと、耳の痛いことを付け加えた。

「こんなことをしていると、開発費の捻出に困窮する時期が必ず来ます。あるいは現在、もうかなり厳しいのかもしれませんが」

 気に食わないことをずばずば言われたが、余りにも、的を射ていたので、八郎は二の句が継げなかった。実は草本にもいずれは開発費の用立てを打診しようと思っていたが、言い辛くなった。この日は、草本は情報交換をして八郎と別れていった。

 翌日、思いがけなく長官から電話を受けた。

「先日、電話を頂きましたが、視察に出かけていて留守でした。発明の相談相手は本多部長でよろしかったですか」

 八郎は長官の声が聞けたことが嬉しくて、この日一日、明るい気持ちであった。

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半年位経ったある日、八郎は草本に電話を入れた。

「急ですが明日、富山に行きたいと思いますが」

電話の向こうでは、予定をやり繰りしている様子で、時間が掛かっていたが、八郎は了解の返事を貰った。

その日の夕方、車で群馬を出て、富山には早朝に着いた。草本の経営する会社の駐車場に車を止めて、八郎は社員と三人で、草本の出社を待ったが間もなく姿を現した。


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