発明馬鹿 -8/16 [北陸短信]
.刀根 日佐志
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「目新しい装置ですが充分にユーザーの意見を聞いてみたのですか」
草本から痛い所をちくりと刺す意見が出た。八郎は発明家の盲点をつかれた気持ちになった。俺は創るのが好きなのだ。俺が創るものは売れると、一途に思い込む気持ちが独りでに出来てしまっている。何の根拠もないが。
「えー」
八郎は曖昧な言葉を言っただけで話を続けた。
「ユーザーの反応は如何でしたか」
再度、草本は聞いてきたので、八郎は煩い奴だと思った。八郎はこの商品に賭ける意気込みが強かったので、少しでも疑義を挿む意見はやかましいと思うようになってきた。
「そうね」
八郎は曖昧な返事を返すと、構わずに銀行強盗の撃退装置の説明を続けた。
友人からもよく言われる。
「お前の話し方は、大きな袋に詰められた水が、底に開けられた小さな穴から、細い水の束となり絶え間なく流れ出るように、話には淀みがない。言葉に無駄がなく、説得力と引き付ける魅力がある。だが人の話や忠告を謙虚に聞き、それを生かす姿勢がない。また、お前には物創りに懸けた、只ならぬ執念があり、物創りを始めると、眼光が鋭くなり眉間の皺が一段と深くなってくる位に奮闘している。しかし、その物を売ることにも努力して欲しい」
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従って、草本からも、同じ見方をされているのかも知れないと考えていたら、草本が痛いところを更に突いてきた。
「一生懸命に研究開発されていることは認めますが、市場調査を余りしていないように感じられます。売れないものを作っては無駄が大きいですよ」
八郎は独り善がりに陥っている独善の扉を、こじ開けられた思いであった。
開発室の作業台には、ランプが点滅している試験中の装置や、半田付け中の装置が散乱して、その脇に薄汚れた寝袋が無造作に置いてある。草本の目は開発室をぐるりと見渡していた。
八郎からすれば憎く聞こえる言葉を草本は平気で喋った。
「徹夜もよいのですが、売れるものを作ってください」
「売れるものね!」
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