発明馬鹿 -2/16 [北陸短信]
. 刀根 日佐志
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つい先頃、八郎はその長官に技術分野の方で、私の発明にアドバイスを頂ける人を紹介して欲しいと頼んだ。電話をするだけで心がわくわくしていたので、二日後、八郎は長官から「良い方が見つかりました」と直接連絡を受けたときには、年甲斐もなく心臓が小刻みに鼓動していた。
「五日後、航空技術研究所へ視察に行きます。そこの技術部長に事前に主旨を連絡してご相談しておきました。当日、視察の終わった時間に、研究所の本多幸一部長を訪問して下さい。話がついております」
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今もって独身の長官は、結婚する気がないのかもしれないと関係のないことを考えながら、八郎は長官からの電話を受けた。
午後四時過ぎの約束した時間に、八郎は、早足で研究所へと向かった。
幾つもの研究棟からなる航空技術研究所は、東京の都心を離れた閑静な所にあり、緑の森で囲まれていた。平成十二年十一月の空は薄墨を流したように濁っていた。
その曇り空に覆われた研究棟の建物は、あたかも地べたに這いつくばって動こうとしない愚鈍な牛のように、じっと何かに耐えている姿に見え、森閑としていた。そして、幾多の風雨に耐えた灰色に汚れた外観を、曝け出していた。そんな外面からは、世の先端を行く研究がなされている佇まいには思われなかった。
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研究員に聞くと、いつもは人が時折、研究室に出入りしているくらいで、建物の中も静寂が保たれており、研究室は実験機材が、所狭しと置かれているという。だが今日は、少々様子が違っていた。大勢の人が建物の廊下を行き来して、研究室の中も綺麗に整理していた。長官の視察が終わり午後四時頃になると、元の静かな研究所に戻っていた。
八郎は腕時計に目を遣ると本多部長の部屋に入った。
「長官から事前にお電話を頂いて、聞いておりました。先ほど来られたときにも、その話が出ておりました」
どうぞお座り下さいと部長は八郎を部長室の応接コーナーに迎えてくれた。ソファーには部長とその横の席に、部長の大学で同級生という草本省吾が座っていた
八郎はその向かいの席に腰掛けた。
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草本は毎月一回、新しい情報を求めて部長を訪ねていたので、長官から連絡を受けた部長は、今日同席するように彼に依頼したらしい。彼はメーカーに勤務の後、郷里の富山で社員三十人の設計会社を経営しており、傍ら幾つもの発明を商品化していると、八郎は部長から紹介を受けた。
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