お節介野郎 -13/15 [北陸短信]
.by 刀根日佐志
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翌日、昼近く五郎が散歩しているとき、三人の大阪チンドンチームが車で目的地へ向かっていたのに出会った。T小学校の前に差し掛かると、授業参観を終えたと思われる大勢の父母と子供達が、校門から吐き出されるようにどっと出てきた。チンドン屋は人の集団を見ると、チンドン魂に火がつくとみえて、車から降りて、ここから一・五キロをFマーケットの宣伝をしながら、そのマーケットまで練り歩くことにしたらしい。突然に降って湧いた甲高い打楽器の音とパフォーマンスに、父母と子供たちは物珍しさも手伝い、大喜びである。大きな人だかりの集団は、チンドン屋を中心に移動した。五郎もその集団に混じって歩いた。やがてカレーハウス『インド』の前に差し掛かった。
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『インド』ではコック帽の二人は、何の騒ぎかと店の前へ出てきた。パフォーマンスをしながら、チンドン屋の三人が、『インド』の前を通ったとき、じろじろとコック帽の二人の顔をしつこいばかりに覗き込んでいた。すると、何を思ったかチンドン屋は、即興でカレーハウス『インド』の歌を歌い宣伝を始めると、そのまま、『インド』の店内に入り込んでしまった。勿論、五郎も見物客の集団も店内に入り込んだので、狭い店は人で超満員であった。昼食時間であったのでチンドン屋の三人は、カレーライスを注文した。店内の大勢の人も釣られてカレーライスを注文した。五郎がこのカレーライスを食べるのは二度目になる。
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『インド』では、今までに、こんな大商いをした歴史はなく、立ち所に売り切れてしまった。座り切れないので立ったまま外で、食べる人もいた程である。チンドン屋のリーダーが、コック帽つまりインド人と何やら話しこんでいた。不思議なことに、チンドン屋が逆にコック帽に深々と頭を下げて、お礼を述べていた。
「息子を助けてもろたコックさんに、富山で会うなんて不思議でおます。その節はほんま、おおきに」
「息子さん大きいならはっただすやろ」
「その息子がもう小学校五年生だっせ」
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