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お節介野郎 -7/15 [北陸短信]

                                                    .by 刀根日佐志                                              

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角地にあるこの店の玄関前から横手へと、L字型に側溝が走っていた。そして、細い道路のある横手の方は、コンクリートの溝蓋が、綺麗に嵌め込まれていた。玄関前は格子型の金属製の溝蓋が、十数枚並んで通路を形成していたのである。

 時々、玄関前を車が通り、横手の細い道路に小回りして曲がるとき、側溝の上に乗り上げ踏みつけて行く。すると、金属製の溝蓋は角から六枚が、水から持ち上げた魚が反り返った様に、道路から五センチくらい、両端を跳ね上げた無様な格好になっていた。

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-- 店に入る時にお客さんが躓かなければよいが。

と五郎は呟くばかりである。

とある昼下がり、五郎はカレーハウス『インド』の店前で「入ろうか、入るまいか」と意を決しかねていた。だが決心して店の前に立っていたが、及び腰で、この場に至っても「今日はお休みです。まだ、ご飯が炊き上がっていませんので……」と店員が出てきて断って欲しいとの願望が心を支配していた。

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玄関の扉には、やや大きい文字でカレーハウス『インド』と書いてあった。そして『営業中』の札の下がった扉を開けてみた。

店内には人影がなく、窓から入り込んだ力のない光が床にこぼれていた。天井から下がった数本の黄色いシェ―ドから白熱灯の光が、寂しげに燈っている。四人掛けの白いテーブルが四組と、数人が座れるカウンターがあった。白熱灯の光は、テーブルの白に反射してシェードが、湾曲した形でテーブル上に映し出されている。視線をずらすと、ゆっくりと揺れて見える。壁にかかったスピーカーから人のいない店内で流れていた音楽が、何だか、はしゃいでいるように聞こえた。籐のフォーク入れが置かれている以外は、テーブルには何もなく、飾られている物もなかった。ただ、店内はカレーの香りが侘しく漂っていた。


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吉之輔

こんばんは、何時までも暑いですね。
ご訪問&ナイス有難う、先ずはお礼まで。
季節柄ご自愛下さいね。
by 吉之輔 (2011-08-14 19:42) 

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