創作短編(26): 三日コロリ -4/8 [稲門機械屋倶楽部]
2011-08 MWE36 梅邑貫
.
その太吉が、半刻、即ち、一時間もせずに戻って来ました。雪華の浴衣を届け、代わりに春物の木綿の着物を多量に担いで戻って来ましたが、何やら心配顔でした。
「お前さん、早かったね。あれっ、顔色が悪いね。暑いのに重たい荷を担いで来たからかね」
よほど急いだのか、太吉は大きく息をしながら、妻の千代に「もっと側へ来い」と手招きしました。
「どうしたんだよ、お前さん。未だ真昼間だよ」
「勘違いするな。千代、よく聞けよ」
「うん」
「三日コロリが江戸へもやって来たそうだ」
千代も思わず仰け反らんばかりに驚き、誰もいない店の中を見廻してから小声で問い返しました。
「誰から聞いたんだい」
「志津よ。俺にそっと教えてくれたんだ」
「志津がそんな質の悪い冗談を言うはずはないよね、お前さん」
「そうよ、だから俺は急いで帰って来たんだ」.
三日コロリとは、今で言うコレラのことです。江戸時代だけではなく、大昔からコレラは怖い病気で、罹ったら三日でコロリと死ぬ大病でした。その上、コレラは決まって西国から東へ向って流行る病で、これは九州へ着く中国船が持ち込んだからで、既に持統天皇の時代にも中国船が持ち込んで西から流行り、藤原四兄弟が犠牲になっています。
疫病と流行り病は西から来ます。西と言うのは隋・唐の時代から明国、清国となり、中華民国と代わり今日の中国まで、常に西から持ち込まれます。
中国は我が国へ貴重な文物をもたらしてくれましたが、同時に歓迎できない病原菌も共に持ち込んでくれました。.
「お前さん、三日コロリのこと、どうすりゃあいいんだい」
「まあ、そう慌てるな」
コメント 0