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還って来た日々 -19/25 [北陸短信]

                                     .   刀根 日差志       

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 緩やかな山道を登りきったところに、和風造りで、五階建の建物から張り出た数寄屋造りの玄関が見えてきた。永楽館と書かれた玄関から館内に入り、諸川小学校同窓会と表示のある広間の前に来ると、歓声や笑い声が聞こえてきた。三郎は入ることに、いささかちゅうちょし身体は、かすかな強張りと緊張を覚えた。

(五十年前の友を見て分かるだろうか。今はどんな風貌をしているのであろうか)

(中杉先生はかなりのお歳だ。どんな表情でお話をされるだろうか。サイ、トノ、テイ子……は来ているのだろうか)

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部屋の前に立つと、急に色々な思いが巡ってくる。だが、なぜか名前は思い出せない。五十年経ってもあだ名はすらすらと出てくる。一瞬、立ち止まったが、なんのためらいもない表情を作ると三郎は広間に入った。

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「みなさん、こんにちは!」

 挨拶をして皆の前に立つと、談笑が止まり一斉に視線が集中し、拍手で迎えられた。三郎も皆の方に目を向けると、真っ先に、中杉先生の彫りが深く頬骨に丸みのある顔が目に入り、すぐに判別ができた。顔全体が少しこけていたが、中杉先生と一目で分かった。半世紀の風雪を経ても、面影には変化はない。 

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中央に先生を囲んで二十数人いたが、への字の眉毛に大きな口、その横には下頬にふくらみのある温顔がある。二人は昔の容貌のままで、歳を取ったのだろう。すぐにあだ名が思い浮かぶ。ほかは誰だか判別がつかないが、じっくりと見れば思い出すに違いないと考えていた。

三郎は皆に相対して、広間の中央に坐ると中杉先生に言った。

「先生、私を覚えていますか」

「私が名前を言い当てるさかい、皆さん黙っているがいよ!(いなさいよ)」

 先生はきりっとした目付きになると、皆の発言を封ずるかのように口を開き、三郎の顔をじっと見た。そして記憶の引出しを開けているかのように、しばらく視線をやや上に向けて考えていた。


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