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創作短編(25):雪華図説 -1/7 [稲門機械屋倶楽部]

                            2011-07 WME36 梅邑貫

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時    :天保年間後期(1830年代半ばから1840年代)

場所  :下総國古河藩の江戸藩邸

登場人物:古河藩主土井大炊頭利位と家老高見泉石

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 下総國古河藩藩主土井大炊頭利位、近頃の小学生や中学生でも知っている易しい文字が並びますが、何と読むのかと問えば答が詰まる名前でしょう。「シモフサのクニ・コガハン・ハンシュ・ドイ・オオイのカミ・トシツラ」です。

 古河藩は現在の茨城県古河市で、東京から訪ねると、JR東北本線で利根川を越えて直ぐの場所で、茨城、埼玉、群馬、栃木の四県が接する辺りの茨城県側ですが、当時、江戸時代には下総國の最北端に位置しておりました。

 この古河藩の藩主は代々が譜代大名ですが、頻繁に藩主が代わりました。徳川幕府中頃の寶歴年間末(1760年代)になって幕府で老中を務める下総佐倉の土井勝利が古河へ移り、途中で再び他の者が藩主になることもありましたが、以降、幕末まで土井一族が続き、この物語の主人公である土井利位はその四代目になります。

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 天保十一年(1840年)、まだ肌寒い春先のある日、江戸城内での勤めから日比谷門の斜め前にある上屋敷へ戻った土井大炊頭に家老の鷹見泉石(タカミ・センセキ)が用件を伝えました。

「殿、大伝馬町の大丸より新しき浴衣が届いておりまする」

「おお、もう出来たか。どうじゃ、出来栄えは」

「見事にござりまする」

「そうか。早よう見たいのう。何故、ここへ持って参らぬのじゃ」

「ただ今、直ぐに」

 そこへ上屋敷で働く奥女中の三人が、二人は新しい浴衣を纏い、残りの一人が普段の姿で茶とカステーラを捧げ持って来ました。

「おお、どうしてどうして艶やかだのう」

「はい。浴衣では勿体のうございまする」

「その方達、カスーテをもう一人前とヴァインを持って参れ。切子も二つだ。直ぐにだぞ、よいな」


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