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創作短編(18):源頼朝の妻北條政子 -4/9 [稲門機械屋倶楽部]

                                       2011-04 WME36 梅邑貫

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  政子が流人の頼朝に心奪われ始めた頃、政子の父である北條時政は頼朝の監視役であると共に、大番役として京に滞在することも多かった。政子は時政の長女であるが、父の留守の間に頼朝に近着いてしまった。

 北條時政は政子と頼朝との関係が京の平氏に聞こえることを怖れて、伊豆で目代を勤めている山木兼隆に嫁がせようとした。山木兼隆もかつては伊豆へ流された流人であったが、伊勢平氏の一族であったために、このときは代官の役目を果たしていた。

 父の動きを察知した政子は、その日の内に北條屋敷を抜け出して山一つを越えて頼朝の住まいへ走った。

 政子の行動はただ逃げるだけではなかった。その直後に頼朝を伴って伊豆大権現へ駆け込み、庇護を求めた。伊豆大権現は強力な僧兵を抱えており、そこに匿われた政子と頼朝は、武将である山木兼隆にも手が出せない存在となってしまった。

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 伊豆大権現は、今は伊豆山神社と呼ばれ、熱海駅の北東1.5kmほどに現存する。

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 伊豆大権現で頼朝の妻になってからほぼ二十年、政子は来し方を一瞬ではあったが思い返した。

「我が殿は、ときに厳し過ぎること、ままありまするな」と、政子呟きながら遠くの白い雲を焦点の合わぬ目で眺めた。

「何が素であったか今はよう覚えておらぬが、義経殿の愛しき静御前に頼朝殿が怒った折、この私が殿に、あなた様を慕い、暗い夜道を彷徨い、雨風をしのいであなた様の下へ参りました。静御前の今の心の内も、私のあの頃の想いと同じ。何ゆえにお許しできぬかと申し上げました。さすがの我が殿も、私の一言でお気持ちを変えられましたな」

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 政子は大蔵御所の門の辺りに騒がしい声がするのを聞き取り、頼朝が戻って来たと察した。


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