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迫撃砲の静かな進歩 -2/5 [稲門機械屋倶楽部]

                                                       2010-12-02 WME36 村尾鐵男

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迫撃砲の泣き所

砲弾の命中率は “CEP (Circular Error Probability) で表されますが,CEP” は日本語では「50%確率半径」とか「半数命中半径」と称します。これは射出された多数の砲弾の半数が集中して弾着する円の半径を言います。

迫撃砲の “CEP” は射程7kmの射撃で600mを越え、射程2kmであれば80m以内となります。これに対し、本格的な大砲である155mm口径の榴弾砲では、射程20kmの射撃で “CEP” は300mに納まります。

迫撃砲を7km離れたところから撃って、“CEP” が600mと言うことは、撃った砲弾の半分が直径1.2kmの円内に着弾することであり、これでは射撃の効果が期待できません。しかし、迫撃砲は7kmも離れた目標を撃つための砲ではありません。

もっと近い2kmの目標を狙えば、その “CEP” は80mとなり、多数の砲弾を撃ち込めば、直径160mの円内に在るものを破壊できます。しかし、直径160mの円は大きな円であり、物量に物を言わせて雨霰の如く撃たなくてはなりません。

迫撃砲の命中率が何故かくも低いのか。それには理由があります。通常の砲は砲身内面に螺旋状の溝が刻まれていて、これをライフルと呼びますが、撃ち出される砲弾はライフルで回転させられて、砲口を出てからも回転しながら目標へ向かって飛び、この砲弾自体の回転が砲弾の飛翔を安定させて、20kmもの遠距離から撃っても、半径300mの円内に半数の砲弾が着弾します。

一方、迫撃砲は、幾つかの例外を除いて、砲身内部に螺旋状の溝が刻まれておらず、砲弾に回転運動を与えることのできない滑空砲の一種であります。その代わりに、砲弾の後端に小さな翼を付けて、これによって飛翔を安定させます。

ところが、迫撃砲は放物線状に高く砲弾を撃ち上げるので、砲弾の飛翔の後半は高い位置からただ落下して来るだけになり、このときの風向きによって砲弾後端の翼が影響を受けて砲弾がふらつき、着弾場所が不正確になって命中率を低下させます。これが迫撃砲の泣き所です。

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大砲の砲身は長く使えるものではなく、500発とか1000発を撃つ毎に交換しなくてはならず、艦載砲も同じです。それは推進薬が高温で燃えて、その化学作用で砲身の内面、特に砲弾を回転させるための螺旋状の溝が腐蝕することと初速の速い砲弾による磨耗によります。迫撃砲は基本的に砲弾を回転させる螺旋の溝がなく、砲弾の初速も遅いので、砲身が長持ちして、しかも製造コストも低い利点を備えます。

陸上自衛隊も装備するL16型迫撃砲は日本の豊和工業がライセンス生産して1基が400万円弱ですが、FH70155mm榴弾砲は35千万円であり、米陸軍M109155mm自走砲は900万ドルです。


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