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唐詩選と陶酔の世界 -5 [稲門機械屋倶楽部]

                                        2010-09-05 WME36 村尾鐵男

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【出門何所見 春色満平蕪 歎無知己 高陽一酒徒】

〔門を出(イ)でて何の見る所ぞ、春色(シュンショク)平蕪(ヘイブ)に満つ。歎(タン)ずべき知己なきを、高陽(コウヨウ)の一酒徒(シュト)〕

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漢の高祖に仕えた軍師酈食其(リ・イキ)が高祖の前に出たとき、儒者嫌いの高祖に向かって、「私は儒者ではなく、高陽の一酒徒である」と名乗り出た故事に倣った詩で、作者は高適(コウ・セキ)です。高適は唐王朝の高官ですが、50歳にして初めて詩を作ったと伝えられる遅咲きの詩人です。

〈門を出ると一面の春景色だが、友人は誰もおらず、ただ一人の田舎の酒飲みだ〉との意味です。

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遙遙西向長安日 願上南山壽一杯】

〔遙遙(ヨウヨウ)西の長安(チョウアン)の日に向かい、願(ネガ)わくは南山(ナンザン〕の壽一杯(ジュイッパイ)を上(タテマツ)らん〕

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〈遥か西の長安の日に向かって、南山の長(トコ)しえを願って一杯の祝い酒を献上しよう〉との意味ですが、「長安の日」とは皇帝でり、「南山」は詩経の次の詩から引用しております。

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如南山之壽 不騫不崩】

〔南山(ナンザン)の壽(ジュ)の如く、騫(カ)けず崩(クズ)れず〕

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周王朝の拠点であった洛陽の南に南山とか終南山と呼ばれる山があり、崩れて形を変えることが一度もなかったので、目出度く縁起の善い山とされていました。この詩は、その目出度い南山の如く周王の治世を永らえることを、一献傾けながら願うものであります。

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唐詩選と詩経との間には千年以上の時の隔たりがありますが、このように唐詩選時代の詩人が詩経をはじめとする古代の詩を引用し、又、含意として詠み込む例が多々あります。

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酌酒與君君自寛 人情翻覆似波瀾】

〔酒を酌(ク)んで君と與(トモ)にす。君自ら寛(ユル)うせよ。人情の翻覆(ホンプク)は波瀾(ハラン)に似る〕

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現代語訳を必要としませんが、人情の変転とか裏切りは唐の時代も今も変わらぬようです。そして、親しい友人同士で酒を酌み交わすことが、気を許せる大切な機会であることも変わりがないようです。

(6)に続く


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