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航空工学基礎講座(4) [稲門機械屋倶楽部]

-社会学的観点に立つ入門編-  (2009MEW36 村尾鐵男記) 

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〔余談〕

 私は、昭和48年の秋と暮に、二度に及んで当時のソ連航空産業を垣間見る機会を得ました。ブレジネフ政権下の共産主義政治が最盛期の頃でありましたが、アゾフス海に臨むヘリコプター生産工場を訪れて、特に回転翼の製造工程を具に見ることができました。驚いたことに歩留まりは20%30%でした。アルミのハネカムを引き抜く作業では次々と不合格品が出て、スクラップ回収箱が瞬く間に溢れる光景は今でも忘れられません。材料が粗悪なのか、工作機械が良くないのか、中年の女性作業員の錬度が不足しているのか、敵性国家から現れた私には質問が許されておらず、原因は判りません。 

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叉、機体組立工程でも異様な有様を見ました。私は米国ボーイングをはじめとして数多くの航空機生産工場を見ておりますが、このロストフ・ヘリコプター生産工場では最初で最後の体験をしました。それは機体の組立工程で、エアー・グラインダーの火花が盛大に飛び交い、ハンマーで叩く音が絶え間なく響いていたことです。飛行機の組立工程で火花とハンマーの音は他では体験できません。ソ連のこの工場では、寸法の合わない部品を削ったり叩いたりして組立てていたのですが、この機体に交換部品が何も手を加えずに取り付けられるはずはありません。ソ連から今日のロシアに至るまで、ことヘリコプターに関する限り、その理論はユダヤ人研究者の頭脳から出た優れたものでありますが、その理論を活かす製造現場はスラブ人の世界で、これは異質の世界です。 

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部品の互換性では苦い体験があります。 DC-8型機が全盛の頃、その動力はPWA社自慢のJT3D-3B型と呼ばれたターボ・ファン・エンジンでした。離陸時に発揮する最大推力は18,300ポンド(≒8,300kg)で、コンプレッサー13段、タービン4段の2軸ガス・タービンです。オーバーホールを終えて試験運転を行いましたが、回転が上がらず、加速も鈍く、推力も足らず、振動もあります。因みに航空用ガス・タービンの振動は振幅の許容限界が4mil、即ち1000分の4インチ、約0.025mmです。 

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再度組立工程へ戻し、組立とは逆の順序で分解を始めてほどなく、原因が判りました。コンプレッサーの一つの段が前後逆さまに組み込まれていました。ガス・タービンは前後に長いので、シャフトを垂直に立てて、コンプレッサーとタービンの1段ずつを重ねるように組み立てるのですが、その途中でコンプレッサーの向きを間違えたのです。よく見れば表と裏は直ぐに見分けられるのですが、複数の整備員の注意力が散漫になっていたのでしょう。 

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厳しい品質管理と部品の互換性を持たせるべくアメリカ技術の粋を結集したガス・タービンのコンプレッサー・ステージですが、前後逆さまには組み込めぬようにする工夫はありませんでした。しかし、この後、PWA社はコンプレッサーとタービンの各段が前後逆さまには組めぬように外周に突起を設け、傾斜も付けて再発を防ぎました。 

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ところで、このJT3D-3B型エンジンは、離陸寸前の辺りで9,000馬力ほどを発揮する能力を持ち、DC-8機は四発を装着しているので、36,000馬力ほどの力で離陸していました。

(5)に続く                                2009531日)


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