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航空工学基礎講座(3) [稲門機械屋倶楽部]

-社会学的観点に立つ入門編-  (2009MEW36 村尾鐵男記) 

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2. 部品の互換性と品質管理

昭和47929日、日中国交回復が成り、翌年春、中国民航の親善技術視察団30名ほどが来日し、一週間ほどを付き合いましたが、羽田のエンジン工場では工作機械の数が少ないと言われて驚きました。当時のエンジン工場は整備士800名と技術者30名ほどを擁して活況を呈しており、工作機械は高価なJig Borerやフライス盤等々、100台ほどがあり、さらに数を減らせないかと苦労していたのですが、中国民航のエンジン工場には500台ほどの工作機械があるとのことでした。  

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何故、それほどに多数の工作機械を必要とするのか。得意の民族技能を発揮して偽造部品を作っているのだろうかと疑いましたが、話を重ねる内に事情が明らかになりました。  

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当時の中国民航が運航していた主力機は英国製Tridentとソ連製のIlyushin 62Tupolev 154でした。膨大な数の工作機械を必要としたのはこのソ連製飛行機で、部品の互換性がなかったからです。部品の互換性がないとは俄かには信じられないことですが、機体そのものが同じ寸法で出来上がっていないので、交換用部品は総て少しばかり大きめに製造されており、交換装着する前に機体側の実寸法に合わせて削らなくてはならなかったのです。   

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これはある意味で品質管理以前のこととも考えられますが、私達には部品の互換性は当然のことであり、加えて、世間並みの品質管理体制は出来上がっておりました。  

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しかし、航空会社なるが故に、どちらかと言えば製造現場に重みを置く品質管理の理論には疑問を抱いておりました。何故なら、通常の品質管理手法では、飛行機そのものと部品の品質が維持され、且つ向上されるまでの時間が長過ぎるのです。卑俗的な表現で恐縮でありますが、私達は品質管理を、死亡診断書を統計処理するようなものと呼んでいました。 

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ある部品に誤作動とか故障が発生した場合、その部品のみの現象なのか、同じ部品を装着している同型機の総てに及ぶ現象なのかを即座に判断して対応しなくてはなりません。故障報告をある期間に亘って集め、それを統計処理して対応策を建てる頃には、同じ故障が同型機で次々と起きているかもしれないのです。 

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死んでしまった部品をいくら集めて分析してみても、その部品が生き返るわけではありません。要は部品を死なせないことが重要です。  

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このような概念の下で考え出されたのが新たな手法としての信頼性管理でした。飛行機そのものの信頼性を表す方法と指標は多々あり、その内の一つが定時出発率であり、気障に”Dispatch Reliability”とも称されます。航空会社では15分以内の遅れは遅れとしては扱っておりませんが、定時出発率の算定は、世間に公表した時刻表の出発時刻に、機体そのものに起因する原因で出発できなかった場合は遅れとして扱い、これを95%以上に、でき得る限り99%台に維持することを目標として設定し、そのための手法を考えに考えました。しかし、最も肝要なことは、ある機種に生じた故障なり不具合なりを、同じ現象が他の同型機で起きるのを待たなかったことです。故障や不具合が発見され、その機体のみに限定されぬ限り、直ちに同型機の点検を行いました。

(4)に続く                                2009531日)


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