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航空工学基礎講座(2) [稲門機械屋倶楽部]

-社会学的観点に立つ入門編-  (2009MEW36 村尾鐵男記) 

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〈余談〉

日本の消防庁はヘリコプターを使い始めた頃からフランス製のヘリコプターを運用し続けています。数年前、アメリカ製ヘリコプターが消防庁へ売り込もうとした際、消防庁は主回転翼(メイン・ローター)の回転方向が異なり、消防庁航空隊の現場に混乱が生ずるとか、操縦訓練をやり直さなくてはならないとかの理由を上げて、アメリカ製ヘリコプターを門前払いとしました。このことは新聞にも小さく報ぜられていましたが、一般読者にはどうでもよいことであったでしょう。アメリカ製のヘリコプターとフランス製のヘリコプターでは回転翼の回転方向が異なるのは事実ですが、それによって運航現場が混乱することはありません。もし、消防庁航空隊の現場が回転翼の回転方向が異なるヘリコプターが混在することで混乱するようであれば、組織としてあまりにも能力を欠き、税金で運用される組織としては頼りないものです。   

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ヘリコプターには前後とか左右に、さらには上下に重ねた二つの回転翼を持つものがありますが、それぞれ回転方向が逆になっており、これは機体を振り廻すトルクを打ち消すためで、この場合はテール・ローターを必要はしません。 

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双発のプロペラ機ではエンジンとプロペラによる回転トルクとその反作用を相殺するために左右エンジンの回転方向を反対にする実例が幾つかあります。  

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有名な例は、日本では海軍の双発夜間戦闘機「月光」であり、アメリカではロッキード製双発双胴の戦闘機P-38ライトニングでした。因みに、P-38は山本五十六大将の座乗機を撃墜したアメリカ陸軍の戦闘機でした。しかし、いずれも試作機か原型の段階でこの着想は放棄されて、左右同方向回転のエンジンを装着することになりました。 

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戦線では、同じ出力の同じ型のエンジンでありながら、出力軸の回転方向が異なるエンジンを多数用意し、プロペラもブレードの捻り角が反対になったものを備えておくことは極めて煩わしいことで、長続きするものではありません。  

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現在は、アメリカ・パイパー社のPA-34型双発機が左右エンジンの回転方向を逆にした実例として知られております。パイパー社は軽飛行機の分野では最大手の一社でありますが、民間機で、それも主として自家用機として使われる機種でありますから、左右のエンジンとプロペラを別々にする煩雑さと経済性の悪さも自慢の種になりましょう。   

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航空会社が新しい機種を選ぶときには、エンジンも選ばなくてはなりません。現在、大型機用のエンジンは、英国のRR(Rolls Royce)かアメリカのPWA(Pratt &Whitney Aircraft)GEしかありません。RRのエンジンは左廻りで、PWAGEのエンジンは右廻りです。当然、回転トルクの方向が英米では異なるので、エンジン装着部の構造も異なり、RRのエンジンを一度選ぶと機体を改装してPWAGEのエンジンに換装することはできず、その逆もできません。それどころか、同じ回転方向のPWAGEのエンジンの間にも互換性はありません。航空会社にとって、エンジンの選定はときに社運を懸けた重大な決断でもあります。

(3)に続く                                             2009531日)


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