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我が愛すべきぼろ車達(3) [安曇野だより]

                                                                       ・・・・・下山成人 書き下ろし

峠のトンネルは岩をくりぬいたもので車がやっと通れる狭さであった。このトンネルをやっとのことで潜り抜けると後は大町まで下り道である。相変らずの悪路であるが下りなのでエンジンの負担が少なく何とか大町にたどり着く。その日は有明(今の安曇野市)まで進み知り合いの禅寺正真院に泊めてもらう。和尚に「明日は美ヶ原に登ってみましょう」と勧められその気になる。 

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翌朝早起きして寺に別れを告げ松本へ出る。美ヶ原への道路は直ぐ見つかった。山道に入ったのは朝8時であった。勿論砂利道である。30分程登ったところで我が愛車が突然悲鳴をあげだした。アクセルが利かない。いくら踏んでもふうふうふうと唸るだけで先に進まない。さあ困ったと3人して車の外に出て途方にくれていると小型トラックが上から下ってきた。 

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田舎のお兄ちゃん風の若い運転手であったが我々に気が付きトラックを止めて近づいてきた。「どうしただ?」と聞くのでアクセルが利かないというとボネットを上げキャブレターを指差し「こりゃベーパーロック(vapor lock)ずら」と言った。 

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ベーパーロックは通常はオーバーヒートで蒸気の膨らみがブレーキの油圧パイプの中に生じ油圧が効かなくなる現象を言うらしいが、この場合はその現象がエンジンに噴霧ガソリンを送り込むパイプ中に発生しエンジンに供給されるガソリンが極端に希薄になり、エンジンが正常に機能しなくなることを指していた。「これはエンジンが冷えてくれば又正常に動き出す ずら」と教えてくれたのであった。 

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若いトラックの運転手がベーパーロック現象を良く知っていたのは美ヶ原に登る車は良くこのトラブルに見舞われていたに違いない。そうと分かればエンジンが冷えるのを待つしかない。持参していたウクレレを持ち出し車のそばでしばし演奏して時間をつぶす。

(4)に続く


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