創作短編(42):板額御前 -9/10 [稲門機械屋倶楽部]
2012-04 WME36 梅邑貫
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翌朝早く、浅利義遠は板額御前を引連れて大蔵御所へ伺候し、緊張の面持ちで将軍源頼家と傍に居並ぶ武将達に言上しました。
その板額御前ですが、鎌倉の将軍を面前にしても、まったく臆するところなく、堂々と頭を高く上げ、佐々木西念の配下にあった男達を百名以上も射殺したことを済まないと思うどころか、それを誇りにするほどの威厳を与えました。
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「与一、大儀であった。して、その板額御前じゃが、如何致そうかのう。平家の残党なれば、斬るが必定であろうが、佐々木西念と与一がわざわざ鎌倉まで引連れて参ったとなれば、存念があろう。申してみよ」
浅利義遠が緊張していたのは、板額御前を斬れと頼家が命ずるのではないかとの心配によるものでした。しかし、頼家にも迷いがあると知り、義遠はここぞとばかりに膝を進めました。
「お館様、吾に思うところがござりまする」
「申してみよ」
「はっ。あの御前を、この与一に、お下げ渡しいただきとう願い申し上げまする」
「何故じゃ」
「板額御前を吾が妻と致したく思うておりまする」
将軍頼家も武将達も浅利義遠の言葉に驚き呆れ、その真意を測りかねました。
「何故じゃ」
「この与一、自慢の弓使いにござりまする」
「うん。与一の強弓、よう知っておるぞ」
「この板額御前も音に聞こえたる強弓の技を備えおり、佐々木西念殿の配下の者、百ほどが討ち取られましてござりまする」
「うん。聞き及んでおるぞ。女武者とは言え、僅かも侮れぬと聞いておる」
「吾と板額御前との間にもうけまする子は、生まれながらの強弓使いとなり、お館様と吾等源氏一党を護る頼もしき弓の名手となりましょう」
「板額御前とやら申す女武者との間に子を作ると申すのか」
「御意」
「左様か。しかしのう」
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