創作短編(33):藤堂高虎と西島八兵衛 -4/9 [稲門機械屋倶楽部]
2011-11 WME36 梅邑貫
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京都二条城の修築現場で、西島八兵衛は城を築き修築する藤堂高虎の技術を初めて目の当たりにして、この異質の世界に魅入られてしまいました。
縄張りとは、敷地に単に縄を張るだけだと思い込んでいたのですが、それほどに単純なことではなく、過去の実体験に裏打ちされた藤堂高虎なりの緻密な計算が働き、総ては理詰めの世界であることを西島八兵衛は知りました。
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「八兵衛、どうじゃ、縄張りは面白かろう」
「はい。単に城を築いたり、傷みおります場所を直すだけに留まらず、御領内の施政にも役立ちまする」
「うん、そうじゃ。だが、何故にそのように考えるのじゃ」
「はい。何もかもが理屈で裏打ちされおりまする。理屈に合わぬところは破綻致し、見掛けは美しゅうても、長持ちは致しませぬ」
「そうじゃ。よう見ておったな」
「まだござりまする」
「何じゃ。申してみよ」
「敵への備えでござりまする。特に未だ目に見えぬ敵への備えは、敵が斯くの如く攻めて参ろうと推し量り、十重二十重にその備えを先立って造りおきますは、これこそ御領内での政(マツリゴト)に相通じまする」
「そうじゃ。でもな、八兵衛、何も敵に備えるのみではない。川筋を換え、川岸を高くするは石高を増す手段であり、池を造り旱魃に備えるは、領民を飢えさせぬための手立てでもある」
「縄張りは政の礎(モト)を教えてくれまする」
「そうじゃ。八兵衛はよう見た」
「お褒めいただき、有難きことにござりまする」
「うん。だがな、大事なこと、もう一つあろう」と、藤堂高虎は八兵衛の目を覗き込むように問いましたが、八兵衛には咄嗟には思い出せません。
「申し訳ござりませぬが、思い出せませぬ」
「職人を育てることじゃ。如何な縄張りの名手と持て囃されても、腕の立つ職人を欠いておっては良き築造はできん。職人を労わりながらも、厳しく育てるのじゃ」
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