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発明馬鹿 -12/16 [北陸短信]

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今の女房は中々確りしており長く続いています。これからも草本さん、協力して下さい」

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 話を聞き草本はしんみりとした表情をしていたが、今の研究を始めた動機を知りたかったらしく、語気を強めて聞いてきた。

「防水コンクリートに取り組んだのは、どういう経緯からですか」

「警備保障会社を手放した頃、俺は友人の農家を訪ね、そこで茸研究家と出会いました。彼は椎茸のハウス栽培技術を、椎茸の栽培農家に教えていました。彼から椎茸の栽培方法について、根堀り葉掘り聞いている内に、頭にこびり付くものがありました。それは椎茸の栽培ではなく、椎茸栽培のときに、雑菌感染に苦労され、そのため栽培室の床から地下水と一緒に雑菌が上って来ないようにと、床防水コンクリート層の研究もしておりました。文献を頼りにセメントに薬品を調合する研究を、何度も繰り返したことを詳しく話されました。この話を聞き、俺は翌日から会社の開発室にこもり、薬品を買い集めると、聞き出したレシピで、防水コンクリートや防水モルタルの研究に着手したのです」

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「発明家の性みたいなもので、早く研究に取り掛かろうと逸る気持を、抑えることが出来ないのです。草本さんからも注意されていますが、開発することに興味を持ち、防水コンクリートがどの程度需要があり、商売になるかについての調査は後回しなのです。市場調査は行っておりませんが、開発が出来れば売れるものと信じております」

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 草本は防犯機器と全く異なる分野へ、軸足を移したと驚いていた様子であった。

「この事務所は元の警備保障会社のお客様だった曙建設所有の建物を、曙会長が無料で貸して下さり、会社に出資もして戴きました。その代わり曙会長の病院通いや、身の回りのお世話をやっております」

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ここまで話したところで、八郎は作業場へ行き、防水セメントを塗ったスレートの小片を数個持って事務所に戻ってきた。

「このコンクリートは早く固まり、防水力に優れています」

その小片に水を垂らして草本に見せた。

草本から成分を聞かれたので、レシピを話すと塩素系の薬品は、鉄筋の錆びが発生するので解決しておかないと問題ですよとアドバイスがあった。


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