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お節介野郎 -10/15 [北陸短信]

                                                     .by 刀根日佐志                                              

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昼の時間に五郎が、カレーハウス『インド』の前を通ると、反り返った溝蓋の隙間に被せてあった『すの子』が、溝から飛び出ていた。あれだけ傍観者を決め込んでいた五郎が何気なく、吸い寄せられるように溝の所へ近付いた。そして、しゃがみ込むと『すの子』を被せ直していた。

「おおきに!」と言う声に驚いて見上げるとコック帽の一人が五郎の後ろに立っていた。上手な関西弁で続けた。

「カレー食べて行きなはれ。わてらのカレーは、ごっつう美味しいおます!」

「……」

「どうぞお入りやす」

「……」

コック帽に急かされると夢遊病者のように、ふらふらと五郎は店内まで歩いて行った。

あれだけ躊躇していた頑な気持は、どこかへ飛散していた。予期せぬコック帽との出会いと、意外なインド人の流暢な関西弁に呆気に取られている内に、気がつくと客席に坐っていた。もう一人のコック帽は、店内で寛いでいたが、慌てて調理室に入って行った。

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「どないしますか」とメニューを指差した。

呆然とした気持が遠のき、五郎は落ち着きを取り戻した。コック帽をよく見ると、若く彫りが深い顔、鼻が高く、窪んだ目は五郎を見て、微笑んでいるようである。メニューには、インドカレー、シーフードカレー、ココナツカレーと書いてあった。

以前に店内を一度見たことがあるが、そのときと、何ら変わっていない。でも壁際にインドの民族衣装をまとい横笛を手にした女性を織り込んだタペストリーが吊るしてあり、それははじめて見る。

「シーフードカレー」

と五郎は答えた。それから先程のことを反芻していた。


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