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お節介野郎 -9/15 [北陸短信]

                                                      .by . 刀根日佐志                                              

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玄関前の側溝では、両端を跳ね上げた無様な格好の溝蓋は、よく見ると裏返しされて嵌め込まれていた。今度は中央が、こんもりと隆起して、不揃いな六人の踊り手が、頭をもたげたような異様なおどけた格好で、阿波踊りを見せているようにも思える。隆起した分、溝蓋は短くなり、溝蓋間には数センチの空間をつくり、歩行者は隆起した所で躓き、更に空間に足を挟まれる二重の危険が潜んでいた。

やがて車が踏みつけると隆起は、再度反転した。そして、いびつさが益々増幅し、軟体動物のように波状に変形した溝蓋と、両端を跳ね上げた無様な格好の溝蓋とが交錯した。

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その上を通過する車で溝蓋は擦れ合い、まるでゆったりと踊る黒田節と、テンポの速い阿波踊りとが同時に踊っているようなアンバランスな動作と、軋みが伝わってくる。

近所の方の噂によれば、この店は、京都、大阪でコックとして働いていた二人のインド人が、独立して出店したのだという。

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インド人経営者は、客を巧く店に誘導する工夫よりも、インド人の料理する本場のカレーの店を開けば、客は必ず食べに来るとでも考えているのかも知れない。店の雰囲気の好さと、安全、安心、かつ飲食に対する日本人の拘りを、甘く見すぎてはいけないと、五郎は呟いていた。

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「この店に一度入りたい、美味しそうだ」と店先から流れてくるメッセージが、仮にあったとしても、それより先に「この店の前の溝蓋は危ない、特に、お年寄りや子供さんは近寄らないでください」とラウドスピーカーが高らかに鳴り出してしまう。

数日後に、溝蓋は極度に反り返りが大きくなり、角近くの三枚が、大人の足が溝にはまり込むくらいに口をあけていた。溝蓋は金属製にも拘わらず、通り過ぎる車は無常にも飴のように曲げていくが、なおも手加減することはない。

やがてコック帽の二人は、溝蓋を裏返す戦術は止め、あんぐりと大きな口を開けた所に、拾ってきたと一目で分かるような薄汚れたベニヤ板の切れ端が、被せてあった。その後、ベニヤ板の切れ端は、風でどこかへ飛ばされていたが、代わりに、どこで探したのか木製の『すの子』が並べてあった。


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