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お節介野郎 -5/15 [北陸短信]

                                       .by 刀根日佐志  

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何の店であろうか。客を引き付けるに充分な店か。どんな工夫を凝らした店になるのだろうか。益々、五郎は気懸かりになり、明日にでも開店してほしい気持を沸沸とさせてい.た。

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翌日、車でわざわざ遠回りをして、そこの前を通りながら様子を見に行った。すると、家具屋のトラックから二人の作業員が、四人掛けの白い木製のテーブルと椅子を下ろして店内に運び込んでいた。椅子は木製で、茶色の洒落た長い背もたれが付いていた。

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でも、店内は地味な感じで、何となくアンバランスな黄色の三角錐形のシェードを取付けた照明が下がっていた。客席があるから、どうも食べ物屋に違いないと思われる。

こう考えると五郎のお節介は、ますます増幅していき、独り言をブツブツ呟くようになった。

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パスタ、いやピザの店、蕎麦屋、うどん屋、それとも天婦羅屋かなあ。でもなさそうだ。

ステーキの店は、この団地には向かないからなあ。

牛丼の店かなあ。でも『吉野家』や『すき屋』には勝てない。

あの大仏の掌の飾りは何を意味するのだろうか。分からない。

五郎は想像の樹海に足を踏込みんでしまった。徘徊が始まり方向感覚を失い、無意味にさ迷い歩き、抜け出るすべを失った。原生林が広がり、地には絨毯のような苔が蜜生し、倒木が行く手を妨げている。天を見れば、大木の茂り重なった枝葉が昼の暗がりを作っているようだ。出口が分からない。

結論の出る日を待った。

店内の改修工事が終わった。

五郎は店の側で見ていた。

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近くから鶯の鳴き声が聞こえてきた。この地域では珍しい。周りの木々を見たが、その姿はなかった。五郎は視線を頭上に向け探し当てたが、電線の上で鶯が囀るのでは、風情もなく絵にもならないと詰まらなく思って、すぐさま、その店に目をやった。

外観は平凡で、ごく有り触れた何ら特徴のないものである。だが、朝日を浴びた大きな窓ガラスが異様に照り輝き、そこにはガラス一杯に張られた掌の飾りが、黒い光となり浮かび上ってきた。甲高い鶯の鳴き声が、その黒い光の中に染み込んでいった。

ドアにはカレーハウス『インド』と書かれ、玄関先にも小さな看板が置いてあった。


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